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「そう言えば***はシエル、君の何なんだ?」
食事も下げられ、デザートを待つ間にクラウスはシエルに問い掛ける。
話題に上がっている***は今この場にはいない。
「そうだな…」
クルクルとデザート用のスプーンを回しながらシエルは言葉を考える。
「可愛い可愛い血の繋がらない妹みたいな子だよ。……なんて言ってみたいんだけどな
実際の所、何なのかよく判らないんだ
彼女は思考の行き詰まった僕に案を示し、僕はその謝礼に住居を与えた。
ただそれだけだ。
他に言うなら***が記憶を無くしているとかはあるけどな。
そもそも***が客人だとしたら、同じ客人のクラウスに会わせようとしないだろう。
まして浴衣を与えて石庭の演出に一役買わせようなんてしないんじゃないか?
かといって使用人達と同じような立場かと言えば違うしな。
僕は***にはその日その日を彼女がしたいようにさせているつもりだ。
まぁ…彼女の場合、ほぼ読書に費やされているけどな」
一度言葉を切ってシエルは再びスプーンを弄り出す。
話を聞いていたクラウスはゆっくりと口を開いた。
「つまりシエルは***を気に入ってるんじゃないか?」
「クラウス?」
「いくら案を示したからと言って普通は家に住まわせないものだろう。
それに、だ。シエル、何だかんだ言って君は***を…いや何でもない」
忘れてくれと言うようにクラウスは軽く手を振った。
シエルは問い掛けようとするがセバスチャンがデザートを運んで来た為、話は自然とデザートに移っていった。
シエル達がデザートを食べている頃、別の場所では
『おいひぃ♪』
口の中いっぱいにミルフィーユを頬張り幸せそうな声を出す***がいた。
「喜んで頂いて何よりです」
セバスチャンは紅茶を注ぎながらそう答える。
「あ。***様。少し質問しても宜しいですか?」
『ふぁい?』
「…口の中の物が無くなってからお話下さいね」
『…んぐ…どうぞ?』
「昔、来客が多い暮らしをしていたのですか?」
記憶を無くしている者に昔を問うなど馬鹿げた事なのは判っている。
それでも聞かずにはいられないのは、***の身のこなし方があまりに自然な物だったからだ。
仮に本で知識を得ていたとしても、行動するとなれば別の問題になってくる。
しばらく***はフォークを見たまま、考え込んでいたがパッと顔を上げた。
『昔の事は判んないけど、なんて言えば…
みんなの前に出るまではすごくドキドキしてたんだけど…合図されたら頭の中が真っ白になって、頭で考えるより先に体が動いてました?』
「疑問系ですか…まぁ良いです」
嘘を吐いているとは思えませんしね、とセバスチャンは考える。
「とりあえず」
『?』
「***様がお菓子を幸せそうに召し上がってくれると作り甲斐がありますよ」
『…あ、はいっ…』
褒めているのか、皮肉られているのか判らなかったけど、恥ずかしさから***は顔を赤く染めた。
王子様と従者と知識人 END
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