no title | ナノ


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「君は実に知識人だな」
「恐れ入ります。あぁ知識人と言えば彼女もですよ、クラウス様」
「彼女?」
「確かに。彼女の知識量は半端ない(片寄りはあるけどな…)」

一体誰だと言う顔をするクラウスと反対に、シエルは片肘をついたままクスリと笑う。

「彼女ならすぐに来ますよ」

チラリとセバスチャンはドアを見やり、すぐに食事の用意を始める。
その後ろからドアの開く音に紛れて鈴の音と下駄の音が中庭に響く。

「おぉ…これは…」

―カラン…コロン…

クラウスが驚く中、彼女は一歩一歩歩いて行く。

「紹介しよう、クラウス」

満足そうなシエルの声と共に彼女の歩みは止まる。

「一番新しい住人の***だ」
『始めてお目にかかります、クラウス様、***と申します』

ペコリと***が頭を下げると鈴がチリンと小気味の良い音を出した。

「おぉ、確かこれはキモノと言うヤツだな!菖蒲と同じ色だ…君の黒髪によく似合っている」
『いえクラウス様、これはユカタと言うものなんです』
「ユカタ?あー…***と言ったね、どう違うんだね?」

その言葉に***がニッコリ笑う。

『キモノは着る物、つまり衣服の総称なんです。ユカタは一般的に木綿の単衣の事を指すんです。
 だからユカタを見てキモノだ、と言うのはドレスを見て洋服だ、と言ってしまうようなものなんです。
 本当は…もっと細かいんですがお食事があるので纏めてみました』

如何でしたか?と***が首を傾げる。

「いや…素晴らしいよ…シエル、実に可愛らしい知識人じゃないか」
「ふんっ、当然さ。***は頭の回転力も早いからな」

そう言いながらシエルは食事を促し、食事の頃合を見てセバスチャンがワインの説明を始める。

……が、メイリンが動かない。

セバスチャンの耳打ちでメイリンはワインを注ぎに行くもののその様子は何処かがおかしい。

「…なぁ」
「うん?」
「なんかお嬢ちゃんの様子がおかしくねーか?」

草に擬態していたバルドがまず異変に気付き、その言葉にフィニが視線をメイリンに持って行く。
彼の目に映った光景は真っ赤になりながら何かブツブツ呟きワインを零しているメイリンの姿。
幸いにもクラウスは***に菖蒲がイタリアに持ち帰っても大丈夫かと相談していて気がついていない。
しかし***は気がついたらしく、「何とかして!」と目が訴えている。


(このままじゃ今までの苦労が)

(台ナシにいいいいい――!!!)


漸くセバスチャンとシエルがメイリンのミスに気がついた時、既にワインは後少しでクラウスの元へと言う所まで零れていた。


―もうダメかも!!


***がそう思った瞬間、テーブルクロスが何かに引っ張られるように視界から消えて無くなった。

『ぁ…』
「…お…おぉっ!?
 テ…テーブルクロスはどこにいった!?」

クラウスが一瞬でクロスが無くなったテーブルに気を取られている間にフィニとバルドがメイリンを運び出す。

「クロスにちょっとした汚れがついていたから下げさせた
 気にしないでくれ」
「大変失礼致しました
 ごゆっくりお食事をお楽しみ下さい」

セバスチャンは汚れたクロスを内に隠してその場を離れ、シエルも何もなかったように食事を続けた。



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