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「***様?そろそろ出てきませんか?」
『い、いやっ!!』
ドア越しの会話。
確かクラウスを迎える直前にも同じ会話が繰り返されていた。
「***様?失礼ですが入りますよ?」
『やっ…は、入っちゃダメッ!!』
部屋の主の制止も聞かず、セバスチャンは部屋に入り込む。
「…何をしているんですか、貴女は」
ベッドの上で頭からスッポリ布団を被った***を見つけ、セバスチャンは溜め息をついた。
「そんな事されたら折角の召し物にシワが付きますよ」
『来ないでっ!』
半泣きと言うか既に涙声で***は叫ぶ。それに耳を貸さずセバスチャンは一歩一歩近付いて行く。
『来ないでって言ってるのに!!』
「一体何が気に入らないのですか?」
『………』
「黙秘ですか。別に私は構いませんけど、***様がこのままココから動かないで困るのは坊っちゃんですからね」
『……シエルが?』
「はい、坊っちゃんはクラウス様に***様の事を伝えたそうです。そしてクラウス様は***様に会うのを楽しみにされている。
このまま***様が引きこもっていれば……判りますね?」
冷たい瞳が***を射る。視線を逸らしたくても許されない。
数日前にこっそりお菓子を持って来てくれた時からは想像もつかないぐらい冷たい瞳。
ゾクリと背筋が強張り、本能的に逆らえないのを***は感じた。
『少し…待ってください…顔、洗って来ます』
ノロノロと布団から出て、床に足を付けようとした瞬間、目の前に履物が表れた。
『え?』
「汚れますよ」
履物を差し出したセバスチャンの瞳はさっきのような冷たさはない。
『…ごめんなさい』
すれ違い間際にポツリと呟き、答えも待たずに***はドアを目指して歩く。
そんな***にセバスチャンは中庭の扉の前で待っていてくださいと声を掛け、彼自身も部屋を出た。
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