落ちた先は蒼 | ナノ
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「・・・」

夜が明けるかどうかと言う時間帯。
むくりと布団から人が這い出て、覚束無い足取りで着替えをすると、これまた覚束ない足取りで部屋を出て行った。

「ココ真直ぐにいって、突き当りの庭を降りて・・・それから・・・」

両腕で麻袋に詰まった肥料を抱え、昨日成実に教えてもらった道順をノロノロと辿っていく。
時間が早いせいか、誰ともすれ違う事無く、要は成実が教えてくれた畑に到着したのだが。

「あん?こんな所で何している」
「・・・ぅ」

部屋に帰りたい。
目尻に涙を溜め、要は心の底から思った。
今、彼の目の前にいるのは、竜の右目と名高い片倉小十郎その人であった。
要の中では、拉致されそうになった時、最初に苦言を政宗に呈した人物であり、その真意はともかくこの人は常識がある、と言う認識を持っていた。
しかし問題は小十郎がヤのつく自由業にしか見えない、と言うことである。右頬にある刀傷もあり、その相乗効果は量り知れず。
お陰さまで要は未だに、片倉小十郎(何故か武装ではなく畑の作業着姿である)と言う人物への警戒を解けないでいた。

「し、成実が。話は通しておくから・・・畑に行ってみなって・・・その」
「成実が?あぁ、アイツが言ってた奴はお前の事か」
「・・・え?」
「明日、肥料を試したいって奴が畑に行くって聞いていたんだがな」

お前じゃないのか?と聞かれ、要は素直に頷いた。
その動作に小十郎はしばらく考え込んだ後、こっちだと要を畑の奥へと連れて行った。
小十郎が足を進めた先は、しばらく土地を休ませようと思い、土を掘り返しただけの畑。
区分けしているため、1つ1つの広さは畳み1畳の広さしかない。
そのうちの奥2つを小十郎は要に貸そうと思っていた。

「こっちだ。・・・って、テメェなにしてやがる?」

着いて来ていると思ったはずの要は、何やら熱心に小十郎が手塩にかけた野菜に手を伸ばしていた。
悪戯に野菜を引きちぎろうものなら、畑の外に連れ出して抜刀しようと思った小十郎だが、一瞬だけそれを思いとどまる。
何故なら野菜を眺める要の表情が酷く輝いていたからだった。

「おい」
「・・・っ!!」

ビクリと判りやすいほどに要の肩が揺れ、振り返ったその瞳には明確な恐怖の色が滲み出ていた。
その様子に小十郎は一つ溜息を付いて、要の横にしゃがみ込む。
直後、要が警戒を露にしたことに内心苦笑をもらした。

「野菜が好きなのか?」
「え、あ・・・はい、好き・・・です」
「作るのがか?それとも食べるのがか?」
「両方、ですね・・・。でもどちらかと言えば、作るほうが好き・・・かもしれないです」
「ほぉ」

相槌を打つ小十郎に要は目を合わせる事無く、目の前の野菜の葉を弄り続ける。

「ちゃんと手間暇かけたら・・・それに答えてくれるじゃないですか。それで毎日水やったり、土の状態に気をつけたり・・・そうやって手塩にかけた野菜が収穫できた時って、その・・・「あー、俺頑張った甲斐があったな」みたいな感じがあって・・・」

不意に要が言葉を区切る。
小十郎が何事とかと思えば、要は小さく「ごめんなさい、喋りすぎました」と謝ったのだった。

「何故謝る」
「その・・・俺の勝手な話聞いても迷惑かなって・・・」
「聞いたのは俺のほうだ。迷惑だなんて思っちゃいねぇよ、それにテメェの考えには同意できる」
「え・・・?」

一瞬キョトンとして、その漆黒の目を何度か瞬きさせた要だったのだが、すぐに「そっか」と小さく微笑んだのだった。

「・・・なんだ、笑えるんじゃねぇか」
「え、あ・・・ごめ―」
「謝るな。政宗さまが連れ帰ったときの警戒ぶりが酷かったからな。成実に懐いてると聞いてはいたんだが、何せ俺が直接行けば、てめぇは警戒してばっかりで話にならねぇ」

だからちゃんと笑えるようで安心した。
そう言いながら小十郎が手を伸ばし頭を撫でれば、要は僅かに警戒しながらも大人しくしていた。


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