落ちた先は蒼 | ナノ
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「・・・ほんと、あっという間だな。これは・・・」


縁側に立ち、庭を眺める要の目の前は青と銀のコントラストが綺麗な世界。
大学も北の方にあったけれど、ここまで積もった記憶はない。
もう雪で騒ぐ年ではなくても「ちょっとぐらいなら」なんて気持ちが芽生えてしまう。


「・・・雪だるまぐらい作っても、バチは当たらないよなー」


いそいそと部屋に戻り防寒をしっかりして、庭に飛び出す。
サクリ、と雪を踏みしめた独特の音共に雪靴が沈み込んでいく。
思ったよりも深く積もってるんだなぁ、とのんびり考えながら要は1歩1歩庭の中心へ進んでいく。


「確かこの辺りなら大丈夫だったはず・・・」


秋の庭を思い出す。
あまり端によっては、下の草木を踏みつけるかもしれない。
曖昧な距離感と共に場所を定めて元となる小さな雪玉を作る。
その周りに雪を押し付け、適当な大きさになったところで雪面を少し転がす。
バランスだけは気をつけてゴロゴロ転がしたら、最初の場所にそれを置いて体にする。
後は頭を同じ様に作るだけ。ただ、頭を大きくすると持ち上げられないから見極めが必要になってくる。


「こんなもんかな・・・」


両腕で雪玉を抱え込み、要は一人呟く。
よいせ、と頭になるそれを胴体の上に置こうと振り向いて、要はその動きを止めた。


「ちょ・・・、え、いつから居たんだよ・・・!!」
「え〜?いつだっけ梵?」
「Ah・・・確か要がこんぐれぇの雪玉転がしてた辺りじゃねぇか?」


縁側に並んで立ち、ニヤニヤしながら雪遊びを見ていた政宗が膝ぐらいの位置を指し示す。
その位置に要の手からボスリと雪玉が落ちた。


「なっ・・・それっ、殆ど最初から見てたのかよ・・・!!」
「あぁ、最初からかもな」
「声ぐらいかけろよ、恥かしい・・・!!」
「だって要凄く楽しそうに遊んでたし?」
「Yes.オレ達にゃこんな雪珍しくも何もねぇから尚更な」
「ぬぐぐ・・・」


返す言葉が思いつかず、反論ができない。
いや言い返す言葉ならあるのだ。色々。
けれどそれを言ったところで成実はともかく、政宗を説き伏せられるとは思わない。
せいぜい「じゃぁ目一杯enjoyしろよ」とニヤニヤしながら言われるのがオチだろう。
と言うか実際、政宗はそう言いながらさっさとその場から離れてしまったわけで。
残された成実はその場にどういうわけか腰を下ろしてしまった。


「な、なんだよ…。笑いたいのかよ」
「んーん。要も伊達に慣れてくれたのかなーって思ってさー」
「は…?」


裏のない笑み、と言うよりは子の成長を喜ぶ母のような視線を向けられ要は成実の横に腰を下ろす。


「どういう意味だよ、それ」
「えー?そのまんまの意味だけど?だってさー、梵が連れてきた後の要って誰も近寄らせないぐらいだったのに、それが今じゃ部屋から出るし、廊下を歩けば挨拶できる人が出来た。…それってすごい事じゃない?」
「あー…あー…」


成実の言いたいことは判る。
でも要からすれば、自分の常識が通用しないところに投げ出されて、馴れたと思ったら珍入者(政宗)のせいでその場から引き剥がされる。
そんなことがあれば例え連れていかれた先が立派な城で、宛がわれたのが牢屋ではない普通の部屋だったとしても警戒してしまうという物だろう。
…周りがほぼ男だらけと言うなら尚更。


「ていうか嬉しかったんだよね、俺。要が初めて部屋に入れてくれた時」
「…」


思わず要は押し黙まる、そしてよみがえるのは当時の記憶。
与えられた部屋に引きこもり、外部との接触を断って自身の境遇を悲観していた日々。
その状態の要に毎日凝りもせず話かけに来たのが成実だった。
今の要は成実の行動に折れたから有るといっても過言ではない。


「…俺も。成実には感謝してる。あれだけ無視決め込んだ相手に怒ることなく、よくもまぁ話しかけてきたよな」
「あー、あれ?普通の反応じゃない?何の説明もなく城に上げられて、媚び諂って愛想振りまいてたら逆に疑うね。俺は」
「え、あ、そう…?」
「そ。まぁ梵自身が連れてきたから、梵の気が変わらなきゃ殺される事はないし。俺としては野生動物手懐ける感じ?」
「…野生動物…」
「ちょ、そんな目でみないでくれない?!言い方不味かったなら謝るけど!」
「いいよ、否定しないし」


じーっと非難するような視線に成実は慌てて手を振るが、要はスンッと小さく鼻を鳴らすと立ち上がり再び庭の方へ歩き出す。
そして成実に背を向け、まだ足跡のついていない雪を固めると振り向きざまにそれを成実に向かって投げつけた。


「ぶわっ?!」
「あ、当たった」
「冷てぇ…!なんだよ、怒ってんじゃん!」
「怒ってないし。ちょっと投げたら当たっただけだし」
「なん、だよっ、それ、はっ!!」


リズムをつけて成実が庭に飛び出す。
そのまま目にも止まらぬ早業で雪玉を作ったかと思えば、仕返しと言わんばかりに要に投げつけた。


「ぎゃっ!!」
「おー、当たった。当たった。流石俺!」
「成実、てんめぇ…!!」
「何だよー、先に仕掛けたのは要だろ?」
「うるさい!滅茶苦茶冷たかったぞ!?」
「俺だって冷たかったんだもんねー」


言い合う両者の手には雪玉が。
直後、青空の下いくつもの雪玉が飛び交った。


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