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サラサラと紙の上を筆が走る音がする。
そのすぐ近くからは、パラパラと紙をめくる音がした。
直後ドタドタを近づく足音で、紙をめくる音だけがピタリと止んだ。
「身構えなくていいよ、梵じゃないから」
安心させるように男が声をかければ、もう片方の男はホゥと短く息を吐いた。
「・・・何で判るのさ」
「何でって言われてもなぁ。自然と聞き分けられるようになるよ」
「ふぅん・・・」
腑に落ちない。と言わんばかりの表情を浮かべる男と、それを見て苦笑する男。
「おい」
不意に近づいていた足音が部屋の前で止まり、廊下から声がかけられる。
振り返ればオールバックに左頬に刀傷のある男が僅かに息を乱しながら立っていた。
「政宗様がこっちに来てねぇか?」
「梵?来てたら、今頃要が絶叫してるんじゃない?」
ね?と話を振られ、要と呼ばれた男は微かに首を上下に振った。
廊下にいる男は、ほんの一瞬考えたこんだ後、
「・・・それもそうか。邪魔したな」
そう言葉を残し、部屋の前から去っていった。
「成実」
「ん?」
「何ていうか・・・ごめんな?」
うな垂れ、謝罪の言葉を口にする要に、成実と呼ばれた男はその柔らかな髪の毛を撫でる。
「気にしなくていいよ。流石に要の件は梵が悪いと思うし」
「で、も・・・」
「いいからいいから。っと、そろそろお茶にしないか?俺、お湯貰ってくるしさ。なんだっけ?みるくてー?とか言うの飲ませてくれよ!」
「あ、うん」
言いながら席を立ち、お湯を貰いに部屋を出た成実を要は見送る。
そしてそのまま、膝を抱え込み顔を埋めて、一言。
「・・・帰りたい」
そう呟いたのだった。
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