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「政宗様!先走りすぎですぞ!」
こちらの身にもなっていただきたい!と遥か前方で愛馬を走らせる主君に対して、小十郎は叫ぶ。
いつもの彼ならば、すぐ傍まで追いついて並走することも可能だが、今日は違っていた。
小十郎の後ろには要がいて、その要はとにかく必死で小十郎にしがみ付いているのだ。
「・・・全く」
馬に乗ってる最中に喋れば、素人だから舌を噛むぞ。
そう言ってしまったせいで先ほどから何も喋らない要と、相変わらず馬の速度を落とさない政宗を交互に見やり、小十郎は何度目かの溜息をついた。
話は暫く前に遡る。
北上するからと、防寒対策をしっかりとした政宗・小十郎・要の前に並ぶのは2頭の馬。
言わずもがな政宗と小十郎の愛馬であり、北上するための大切な足でもある。・・・そこまでは良かった。
「・・・う、ま?歩いて、いったりとか・・・」
「Ah?歩いていったらどれだけかかると思ってんだ」
どこか期待を込めた目をする要だが、ココは現代とは違う戦国乱世。
政宗の言葉にあっさりと期待は裏切られ、頭を垂れた。
「・・・そう、だよな。うん、馬、だよな」
「要?どうして後ずさるんだ?」
政宗と小十郎が1歩近寄れば、要は2歩下がる。
じわりじわりと広まっていく距離に、段々顔が引きつっていく要。
また様子がおかしいと二人は思うが、ココで時間を取られると出発が遅れてしまう。
3人の中で最初に動いたのは政宗だった。
「おい、コラ。逃げてんじゃねぇよ!」
「っひゃ?!」
いきなり駆け出した政宗に、要は脱兎の如く走り出す。
とは言え武将相手に逃げ切れるはずも無く、要はあっけなく政宗に首根っこを掴まれた。
「何で逃げた?」
「怖い、んだよ。滅茶苦茶早いし、揺れるし、そもそも俺のいた世界で手綱持たない乗馬とか有り得ないし、っていうか揺れて気持ち悪くなるし、初めて馬乗ったら気絶してるし」
・・・だから、怖い。
視線をあちこちに彷徨わせての要の呟きは、静かな空間に良く響いた。
要の言う乗馬は紛れも無く、政宗の乗馬の仕方そのものだ。
「政宗様のせいですね。だからあれほど手綱を持つように忠告していたはずなのですが・・・」
「Ha!手綱を持つなんてcoolじゃね・・・sorry」
ビキリと米神に筋を立てた小十郎を見るなり、政宗は片手を挙げた。
そして未だ首根っこを掴んだままの要に向き直る。
「よし要。小十郎と相乗りしろ」
「政宗様?」
「え?」
「小十郎は手放しで馬に乗らねぇよ。揺れるのは馬だからな、諦めろ」
ニヤリと政宗は笑みを見せ、要の額を指先で弾き、小十郎にはコレでいいだろ?と主従関係を濫用したのだった。
そしてトドメに一言。
「第一、馬に乗れないなら、どこにも行けやしねぇぞ」
未だに戸惑う要の目を見て、その一言を放った。
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