落ちた先は蒼 | ナノ
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「・・・。・・・ごめん、なさい」


足が痛い。けれど足を崩せる雰囲気ではない。
正座をする要の前に立ち塞がるのは、政宗と小十郎と成実の3人。



「無言で居なくなるんじゃねぇよ」
「全くだ。どこかに浚われたかと政宗様は黒脛巾を動かすところだったぞ」
「本当だよ、吃驚したんだから!」
「・・・ごめんなさい」


ひたすら謝る。それしかない。
恐らく本気で怒ってはいないのだと思う。
けれど本気で心配はしてくれたのだろう。
そう思うと反論は咽喉でつっかえて、口から出てこなくなった。


「・・・まぁアンタの気配が無くなったことに気付かなかったオレ等もちったぁ悪いっちゃ、悪いけどな」
「あー、そう言えばそうだよね」
「だが場を動くなら、一言残していけ」
「・・・はい」


俯きながら返事をすれば、目の前に政宗が座り込み、それに習うように続けて小十郎と成実も腰を下ろした。
てっきりさらに怒られるのかと、思わず体を縮こませば聞こえてきたのは政宗の苦笑。


「構えるな。今後の事だけどな、指導はこのまま小十郎と成実に引き継がせる。Ok?」
「え、うん」
「雪が積もれば何も出来ねぇからな、厳しく行くぜ」
「覚悟しといてよ!」
「・・・、は、はい・・・」


表情は違えど目は本気な2人に要は顔を引きつらせる。
もしかしたら落馬の心配よりも、指導に対しての心配を気にするべき・・・だったかなぁ。
と頭の片隅で思ってしまうが、決定事項を覆せる力を要は持っていなかった。



「さて政宗様、そろそろ執務を再開せねばならぬ時間です」
「Ah・・・いや、まだオレは」
「言い訳・異論は聞きませぬ。先日もそうやって執務から逃げ出したではありませんか」
「ちょっと待て、小十郎っ・・・ぐっ!」
「じゃぁな、要。それから成実、新入りたちの稽古見てやってくれねぇか?」
「お、お疲れ様です・・・?」
「稽古?了解ー、今から行くよ」


小十郎が政宗の衿を掴んで部屋を出て行くという段々見慣れた光景を見送り、軽い足取りで稽古場に向かう成実も見送る。
3人がいなくなれば、部屋にいるのは要1人だけ。


「・・・する事がないなぁ・・・」


ごろりと寝そべり、天井を見つめる。
現代ならばパソコンや携帯で時間を潰せるが、パソコンも携帯もバッテリーは無制限ではない。
バッテリーが切れたらそのままだし、何より公に使える代物ではない。
何時どこで誰が見ているか判らないこの時代、時代の流れに反したものは使わない方が良いに決まっている。


「とか思いながらも、手元に有るのが携帯なんだよなぁ・・・」


電源を入れて暫く待てば待ち受け画面に切り替わる。
そこからデータフォルダを開けて、一番新しい写真を呼び出す。


「・・・元気にしてるかな、稔は」


友達が貸してくれたらしい浴衣に身を包み、笑顔を浮かべている可愛い妹。
彼女は今、ちゃんと現代で何事も無く暮らしているのだろうか。
現代で自分の存在がなくなっているとしたら、それはそれで悲しい。
けれど仮に残っていたら、妹は目の前で肉親がいなくなる瞬間を目撃したということになる。


「つーかさ、現実離れしすぎだよな」


突然世界から弾き出され、右も左もわからぬまま落とされた先は戦国乱世。
拾ってくれたのがいつきだったから良かったものの、これが合戦場の近くだったらと考えれば血の気が引いていく。
そして何故落とされたのか判らぬままに、己が農神だと農業の神様だと伝えられた。
神様だ、と言われたって何の実感も湧かないし詳細も判らない。
何か特殊な力が使えるのか、一般的に言う不老不死なのか、などなど。


「・・・あぁ、それを知るために乗馬の練習してたんだっけ」


練習に必死で忘れていたけど、そもそもの目的は甲斐に行くため。
政宗を殴り飛ばした(らしい)土地神とやらに会いに行くため。
同じ神様なら知ってるんじゃないか、と言う大雑把な理由だけど情報が欲しいのも事実。


「知りたいけど、知りたくない。・・・難しいな」


果たして自分が何なのか知りたい。
けれど知ってしまえば今までの佐伯 要を全否定されてしまいそうで。


「・・・畑、行ってこよう」


考えれば考えるほど堂々巡りになりそうだ、と要は思考を放棄する。
そして携帯の電源を切ると、現実から逃避するために再び草鞋を履き、庭へと降りた。










誰もいなくなった部屋。
僅かばかり開いていた隙間から一陣の風が吹きぬける。
部屋の中で旋風を巻き起こしたそれは瞬き1つの間に人へと姿を変えた。


「ふーん、アレが噂の。お帰りと言うべきか、ようこそと言うべきか。何にせよ大変な御方だろうね。中と外が違うんだから」


どっちにしろ上は大喜びだろうね。形は何であれ戻ってきたんだし。
そう呟くと人の姿は再び風に紛れ込むように消えてしまい、今度こそ部屋には誰もいなくなった。







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最後は礼儀知らずなアイツ。
勘の良い方はお判りでしょうが、いずれ「甲斐の〜」と話が繋がります。
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