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行きと違い、夜明けと共に出発したからか。
・・・それとも崖を飛び越えたり、色々ショートカットを行ったせいか。
日が沈むと同時に、一同は城へと戻ってきていた。
そして、少し遅めの夕餉を終えた後、要は政宗の部屋に呼び出されていた。
「失礼します」
入室許可と同時に一度頭を下げて、部屋に入る。
目の前には、政宗と小十郎の2人。
嫌でも要は鼓動が早くなるのを感じた。
「良いか、今から話すことは嘘でもねぇ。truth・・・真実だ」
鋭い隻眼に射られ、要はぎこちないながらも首を縦に振った。
「少し前、俺が甲斐に行ったのは覚えてるな?」
「甲斐・・・あぁ、野暮用の?」
「Ah-・・・まぁ、な。その時に聞いたんだが、要、アンタ・・・農神、つまり田の神らしいな?」
「は?農神?田の神・・・?」
よく判らないが、ニュアンス的に神様っぽいことだけはわかる。
首をかしげていると、政宗が小十郎に説明しろと促した。
「農神ってぇのは、簡単に言えば農業の神様だ。民の農作業を見守り、時には助けて豊作をもたらすと言われている」
「何、それ・・・。俺、そんな神様とか、高貴なものじゃないし・・・」
「Calm down.動揺しても事実だ。俺たちも最初は信じてなかった。だがな、言われちまったんだよ。要を最初に拾ったって言う農村に行ってみろ、もしもその地域だけ豊作なら正解だと」
「あ、いつきのところ・・・」
「な、bingoだろ?要が直々に手出したからじゃないのか?」
「う・・・」
否定、出来なかった。
同時にいつきの村で、やけに神妙な顔をしていた理由が判った気がした。
「後な、俺たちも教えてくれた奴も要じゃねぇから判らねぇが・・・"声"が聞こえないか?」
「声・・・?」
「あぁ、"北の御方"とか"白の御方"とか・・・おい、要?!」
「ど、どうしよう・・・!」
自身を抱きしめながら、カタカタと震え始める要。
その顔は誰が見ても心配するほど真っ青で、混乱していると言うことが伺えた。
「俺、そんな・・・いきなり、言われたって、人間だよ。そんなの、知らないし・・・。それに、何?俺が、ここに来たのはそのため?そのために、稔は向こうで一人ぼっちだよ・・・、今まで、俺、父さんと母さんのかわりには、なれないけど・・・、けど、稔が幸せになれるように、って・・・。頑張ってた、のに・・・。なぁ、どうして俺なの?何で他の奴じゃないわけ・・・?向こうに残された稔は誰が護ってくれる?!教えてよ・・・教えろよ、なぁ政宗!」
「政宗様!!」
「待て、小十郎!手は出すな!」
政宗に掴みかかる要を止めようとする小十郎を政宗は制する。
確かに首下を引っ張られて苦しいのだが、混乱させたのは自分だと言う負い目もあった。
「sorry・・・。すまねぇ、要。俺には、俺たちにはどうする事も出来ねぇ・・・」
「っ・・・!」
真直ぐに要を見れば、衿を引っ張る力が弱まり、そのまま要は崩れるように政宗に倒れこんだ。
「わかっ、てたんだ・・・。薄々と、帰れないって・・・。ただ、改めて・・・その事実を、突きつけられて・・・頭の中、ぐちゃぐちゃになったんだ・・・。いきなり、掴んで・・・ごめん・・・っく・・・」
静かな部屋に要の嗚咽音だけが響く。
しかしそれもやがて、寝息に変わっていった。
「なぁ、小十郎?もしも・・・もしもだぜ?俺が要を此処に連れてこなかったら、要は今頃いつきの村で笑いながら暮らしていたと思うか?」
「どうでしょう。しかし、政宗様。現実は貴方が連れてきたことにより、要はここにおります。・・・要を連れて来た事を後悔なさっているのですか?」
「a little.・・・少し、な」
真実を伝えた時、せいぜい要は驚くぐらいかと思っていた。
けれど現実は甘くなく、要は感情を顕にして政宗に掴みかかってきた。
そして要自身の事よりも妹を考えている事に政宗は少し胸が痛んだ。
「でもな小十郎。前も言ったが、俺は要を護る。・・・連れてきた責任だ、これは変わらねぇ」
異論は認めないというように政宗は小十郎を睨むと、要へと視線を落とす。
掴みかかってきた挙句、倒れこんできて眠る姿はとてもじゃないが20歳の男には見えない。
茶色が混じった自分のとは違う、真っ黒な髪に触れればサラリと音を立てて指の間をすり抜けていった。
「来世から来た人間1人護れないようじゃ、天下は程遠い。違うか?小十郎」
「・・・仰るとおりです」
先ほどとは違い、いつものニヤリとした表情を浮かべる主に小十郎は深く頭を下げた。
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Calm down.(落ち着け)
いきなり「お前は○○だ!」って言われると動揺するよね。
突拍子もないものなら、尚更。
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