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太陽が山の中にいても、見える位置まで登ってきた頃。
要は山道を疾走する馬を"見下ろして"いた。
「・・・重くないですか?」
「・・・」
「・・・両手塞いじゃって、ごめんなさい」
1回目の休憩で既に意識が飛びかけた要を見かねた政宗によって、要は警備でついてきた黒脛巾の1人に託されていた。
20歳になって横抱きなんかされたくないと思うが、背に腹は変えられない。
が・・・首を振ることでの意思疎通があるとは言え、会話が無いのは少し辛いものがあった。
「・・・迷惑かけてるなぁ・・・」
木々の間を飛び移る揺れに身を任しながら思い出すのは、政宗との会話。
『ごめん、この人たち政宗を護るために着いてきてるんだろ・・・?』
『気にすることじゃねーよ。俺がそこいらの賊にやられてたまるか』
『でも・・・!』
『黒脛巾は1人じゃねぇ、まだ控えてる。第一、緊急時にアンタが前にいたら俺が六爪を抜けねぇからな』
『・・・あ、うん』
『Don't worry about it.俺も小十郎も黒脛巾も強い。それにちゃんと護ってやるよ』
あの後、あのニヤリとした笑みを浮かべられ、ぐしゃぐしゃと篭手越しだが頭を撫でられた。
嫌ではないものの、やっぱり年下に撫でられるのは複雑だった。
「何事も無ければ良いですね」
「・・・」
返事は首を縦に振る。
会話の成立を諦め、ハフゥと息を吐き出した要の髪を風が撫でる。
そのとき、だった。
―さっきの会話聞いた?独眼竜が、北の御方を護るだって!
―聞いた、聞いた!白の御方の道中護ってるのは僕らなのにね!
―一緒にいる人間どもはその恩恵に預かってるだけなのに、勘違いしちゃって!
―でもー・・・独眼竜の言葉で白の御方が落ち着けるなら、僕は別にいいかなぁ
―そうか?・・・おい!俺ら今、北の方の御前だったぜ?!
―えぇぇぇ?!
「・・・な、ん?」
この間の声とはまた違う声。どちらかと言えば、少年の声に近い。
傍に誰かいるのかと思ったが、政宗と小十郎以外に誰かいれば、まずは忍が警戒するだろう。
空耳にしてはリアリティが高すぎる、と要は思うが、昨日の今日。
気になったのは、「北の御方」と「白の御方」と言う言葉。
前者はこの間も聞いたが、話の流れから察すると、どちらも要を指しているようだった。
(・・・誰?)
生憎知り合いは限られているし、その中で要を変な名前で呼ぶような人はいない。
ただこのまま聞き流しているのも気味が悪い。
それに妖と言った非科学的ものが信じられているこの時代。
(・・・城に戻ったら馬鹿にされる覚悟で話してみよう)
走るよりも早く移り変わっていく景色をぼんやりと眺めながら、要はそう結論付けた。
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