落ちた先は蒼 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


(3/4)

「お侍さん、来るなら来るで連絡の1つでも入れてけろ!」
「んだ。今年は大豊作で村総出で収穫作業してるんだべ!」
「女も子どももみーんなで朝からお天道様が沈むまで、なぁ?」

けして広いとは言えない村の集会所。誰かの言葉に周りにいた人、皆が頷く。
そばに置かれた籠には米袋やら野菜やらが零れ落ちる限界ギリギリまで積み上げられていた。
見たとおり今年は大豊作らしく、男手だけでは収穫が間に合わないからと村人総出で毎日収穫作業をしていたらしい。

「Ah・・・そんなに気候に恵まれたのか?」
「いや、実はそうでもねぇんだ」
「最初は雨もあまり降らねぇ、お天道様も顔をださねぇ、どうなるかと思っただ」
「それがなぁ、要のあんちゃんが来て変わったんだべ」

場の視線が一斉に要に注がれる。
その視線にささやかだが宴の支度があるからと、料理を作りに行った家庭の子ども達の面倒を見ていた要は突然の視線に何事かと目を見開いた。

「な、何?」
「要のあんちゃんが凄ぇって話だべ!」
「は・・・俺?俺何もしてないよ?」
「なーに言うだ!あんちゃんが手入れしてくれた野菜はグングン育っていっただよ!」
「んだんだ。隣村の皆が驚くぐらい立派に育ってくれたべ」

褒めたてる大人たちに、つれられて子ども達も要を褒め始める。
とは言え要本人は話の流れが全く読めず、どうしたものかと首を傾げる。
一瞬助けを求めようと政宗達に視線を送ったが、なにやら神妙な顔に声をかけるのを躊躇ってしまった。

「そんな褒められても、俺本当に何もしてないよ!」
「でもあんちゃんのお陰で、この冬さ無事に越せるんだ!」
「んだ。隣村さに少し分ける余裕だってあるだよ」
「要にいちゃんすごーい!」
「うーん・・・本当に何もしてないんだけどな・・・虫とって、水やって・・・皆と同じ事してたんだけど・・・」

バリバリと頭を掻きながら短い間ではあったが、ここでお世話になっていたときの自分を思い出す。
現代から持ってきた肥料は手をつけていないし、自前で編み出した無添加防虫剤も使っていない。
本当にここの人たちと同じ方法で世話をしていただけなのだが・・・。

「みんなー!料理が出来上がったべー!」
「いつきちゃん!本当だか?!」
「本当だベ!こっちさ運んでくるから、もう少し待っててけれ」

救世主いつき登場。
彼女の登場で、場が一気に宴の準備に慌しく動き始める。
これに子ども達が手伝い始めたのと、客人だからと言う理由で要は部屋の隅に1人佇んでいた。
同じく宴の準備に加わっていない政宗たちの傍に近寄るが、まだ声をかけるのは何だか躊躇ってしまった。






「お侍さんの口に合うかわからねぇけど・・・さっき採ってきた野菜たちで作ったんだべ」
「美味そうじゃねぇか、なぁ小十郎?」
「はい。野菜の質も十分すぎるほどでしょう。先ほど拝見いたしましたが・・・」
「Oh・・・switch踏んじまった・・・」
「あははは・・・」

しまった、と政宗は顔を顰めた。
やはり同じ野菜を作る身として、小十郎はあの野菜の出来が気になっていたらしい。
料理を持ってきたいつきに対し、色々語っている。
最初はいつきも頷いていたのだが、次第に要に救いを求める視線を送り始めた。
それに気付いた要は苦笑いを浮かべ、助け舟を出した。

「片倉さん。いつきを引き止めてたら宴が始まらないですよ」
「はっ・・・すまねぇ、少し語りすぎたな」
「き、気にしてねぇだよ!」

気にしてないとは言うが、明らかに安堵の表情を浮かべながらいつきは宴の中心に移動した。

「みんな!今年は要兄ちゃんのおかげで大豊作だベ!これで冬も凍えずに済む!
 それに今日はお侍さんと要兄ちゃんが来てくれた!これは豊作への感謝と、兄ちゃん達を歓迎する宴だ!」

酒なんて高価なものはない、ましてやいつきはまだ子ども。
彼女が水の入った器を掲げたのが宴の開始の合図だった。

「ふむ美味ですな」
「こっちの煮物も中々だぜ」
「あ、俺これ好き」
「お口にあったようでなによりだべ」

やはり自分たちが作ったものを美味しいと食べてもらえるのは、農民名利に尽きるのだろう。
どんどん料理に手を伸ばす3人を見ながら、いつきはニコニコと幸せそうな笑みを浮かべていた。
まわりもこれだけ豪華なものが食べられるのは久しぶりなのだろう、皆幸せそうだった。

とは言え、酒の無い宴は過剰な盛り上がりを見せる事無く、食事の終了と共にお開きとなった・・・のだが・・・。


「ねぇ、要にいちゃん、一緒に寝ようよー」
「違うよ、にいちゃんはあたしの家で寝るのっ」
「えええー?オレんちだろ?な、兄ちゃん!!」
「・・・え、っと・・・」

わらわらと子ども達が要を取り囲み、皆が皆要を自分の家に誘おうと必死だった。
因みに小十郎と政宗は"お侍さんだから"と言う理由で、既にこの集会所での一夜が決まっている。


「Ha!随分と人気者じゃねぇか」
「・・・」

その政宗は子ども達に自然と場所を奪われ、離れた場所で余興だと言わんばかりに傍観に徹していた。
小十郎は自身が出て行けば子どもが怖がるので大人しく傍観者になっているが、その目には何処か哀れみが含まれていた。

「なー、兄ちゃんはどうなんだよー」
「そーだよ、にいちゃんが決めればいいんだよ」
「ねぇにいちゃんは誰の家で寝るのー?」
「う・・・そう、だな・・・」

迫られ、思わずその純粋で必死な瞳から要は目を逸らす。
その先で誰かいないかと見れば、丁度布団を抱えたいつきがやってきた。
いつきも子ども達に囲まれた要を見て、一瞬目を見開いたが直ぐに何か察してくれたようだった。

「こら!おめぇら要兄ちゃんを困らすんじゃねぇべ!」



<<>>

目次へ