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「・・・先が思いやられるな」
「・・・全くです」
馬を休めるという名目の元、休憩を取った一行。
馬を下りるなり、木の下に崩れ落ちた要を見ての発言だ。
政宗が突っ走っても小十郎に要がいるため、距離としてはあまり進んでいなかった。
「尻が痛い・・・太もも痛い・・・」
グッタリと身体を自然に預け、要は目を閉じる。
歴史番組の合戦シーンで馬に乗り、敵に挑むシーンがあるが真似出来ない。と独り苦笑を漏らした。
因みに小十郎の馬術は政宗のより手荒さは無かったが、怖かったのに変わりは無い。
最もそれは小十郎のせいではなく、要の恐怖心に由来するものだった。
「帰ったら乗馬・・・習おうかな」
視界の隅で美味しそうに川の水を飲む馬を眺め、ポツリと呟く。
いつきの村に行く前から、帰った後の予定を考えるのもおかしな話だが・・・。
「はぁ・・・」
目を閉じて、耳を澄ませる。
水の流れる音、馬の鳴き声、政宗と小十郎の会話様々な音が聞こえる。
―見て、北の御方よ!
―まぁ噂は本当だったのね!
―でもどうして独眼竜と一緒に?
―さぁ?
「?!」
例えるなら他愛もない女学生の会話のような。
そんなノリで交わされていた言葉に要は身体を起こし、辺りを見渡す。
しかし馬2頭と、政宗と小十郎以外に誰かいた形跡もない。
第一、誰かいれば双竜が反応していただろう。
「要?どうした?」
「い、や・・・。気のせいだったみたい」
ついでと言わんばかりに痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。
どうやら馬の態勢も整ったようだった。
「ちぃと遅れちまったからな、一気に飛ばすぜ!」
「要、諦めな。てめぇも野宿は嫌だろう?」
「・・・」
返事の代わりに要は小十郎にしがみ付く腕の力を強めた。
城をたって2日目。日が落ちる直前、なんとか一行はいつきの村に着いた。
しかし村に着いたというのに、そこには人の気配が全く感じられなかった。
「誰もいない・・・」
「変ですな・・・いつもならば、誰かいるはずなのですが・・・」
「Mmm・・・ガキ1人走っちゃいねぇな」
争ったり、襲撃されたような跡も見当たらない。
ただ誰もいないだけ。
それだけだが要の不安を煽るには十分だった。
「っ、いつき?!皆は・・・?!」
「Wait!待て、要!」
長時間の乗馬で身体が痛んでいる事も忘れ、要は走り出す。
近くの家の扉を空けたが、もぬけの殻。
その次も、その次の家も同じだった。
「嘘・・・だろ?」
「小十郎、この近辺で抗争なんてあったか?」
「いえそのような報告は1つも・・・」
ガクリとその場に膝をつき、俯いてしまう要。
予期せぬ事態に流石の政宗も小十郎もどうしたものかと打つ手を考えあぐねる。
沈黙だけが支配する中、微かに近づいてくる気配にハッを要が顔を上げた。
「誰か、来てる」
思わず要が指差した方向をつられて見る政宗と小十郎。
確かに何やら集団が近づいてくるのが見えた。
夜盗にしては大人数で移動速度も遅いが何かあっては遅い、と身構える二人だがその構えは直ぐにとかれた。
「Hey,要。よく見てみろ」
「え?」
こちらに近づいてくる集団の先頭。
周りに比べ一際小さい銀髪の人影を要は視界に捉えた。
それは向こうも同じだったらしく、カゴを背負いなおすと両手を大きく振りはじめた。
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