落ちた先は蒼 | ナノ


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「What's it?」

急な視界の変化に思わず左目を細める中、政宗は見飽きた人影を確認した。

「Oh・・・小十郎・・・」
「・・・政宗様。この小十郎、一体何処で貴方様の教育を間違えたのでしょうか・・・」

怒りを通り越して呆れの視線を送ってくる小十郎に、政宗は冷静に現状を見つめなおす。
今いる場所は押入れ。
目の前には頭を殴打して気絶している要。
その彼に近寄ったため、自然と壁に手をついている状態の政宗自身。

「小十郎。何か勘違いしてねぇか?」
「政宗様が如何なる趣向をお持ちであろうと構いません。しかし時と場合と場所と相手ぐらいは弁えて頂きたいものですな」

ハァとあからさまに溜息を吐いた小十郎。

「おい待て!結局は全部outじゃねぇのか?!って違う、俺は疚しい事なんかしちゃいねぇよ!」
「その状況で反論されても、説得力がありませんな」

腕組みをして見下ろす小十郎に、反論する政宗。
誰が見ても、この時二人の主従関係は逆転していた。

「そもそも小十郎があんな山みたいな量の政押し付けるのが悪ぃんじゃねぇか!」
「それを申されるなら、普段から溜め込まれる政宗様が悪いです」
「Ah?俺はDeskworkは不向きなんだよ」
「不向きであろうと、政宗様。貴方はこの奥州、いずれは日ノ本を統べるお方!そのような我侭、許されませぬぞ」

普段使用していない部屋から聞こえる口論に、廊下を歩く者が何事かと覗きに来る。
そして口論している人物が判ると、納得したように各々のすべき事を再開していく。
しかし何時もと違い、その口論している二人の間に頭を打って気絶している要の姿があることに、誰も気がつかないのだった。



「大体、元を辿れば要が成実のヤツを休ませろなんて言うから・・・Shit!おい、要!」
「政宗様?」
「今の今まで忘れてたが、コイツ壁に頭ぶつけやがったんだよ!」

流石に頭を打っているので、揺らすのはマズイと思うからか。
大声で呼びかけるに留めながら政宗は小十郎に説明する。

「それは・・・!おい大丈夫か?!」
「要!おい、しっかりしろ!」
「ぅ・・・」
「Ok!気がついたか?」

ゆるゆると開かれる瞳に政宗が安堵の溜息を吐いたのも束の間。
政宗を視界に捉えた要は一瞬にして、押入れから飛び出して部屋の隅で蹲ってしまった。
まさに脱兎の如く。

「要?」
「・・・いで」
「何だ?聞こえねぇぞ?」
「来な、い・・・で」

小さく、しかし確かに耳に届いた拒絶の声に政宗は思わずその動きを止めた。

「・・・Is it that I did what?」

俺が何をしたって言うんだ?
そう呟いた政宗の言葉に返事は無い。
ただ確実なのは、要が城に連れて来た時のように・・・いや、それ以上に怯えていると言うことだけだった。
手の打ちようが無く動けない政宗の横を、不意に無言で小十郎が通り抜けた。

「小十郎?」
「・・・」
「ごめ・・・なさい。・・・稔には、手・・・出さない、で・・・」
「稔・・・?」

初めて聞く名前を口の中で反芻しながら、小十郎は首を傾げる。
誰なのかは気になるところだが、さっきから謝罪を繰り返す要の目が虚ろな事に気付き、小十郎は要の前に腰を下ろした。


―パンッ!


「っ?!」
「戻って来たか」
「あ・・・片倉、さん?」

小十郎が要の前で両手を叩いたことで、要がビクリと身体を反応させる。
直後、顔を上げた要の目はいくらか警戒の色は残っているが正気を取り戻していた。
とりあえずは大丈夫そうだと判断して、小十郎は後ろを振り返る。

「政宗様。もう問題ないかと」
「・・・Ok.sorry,要」
「え?俺・・・何かされたっけ?」
「覚えて・・・ねぇのか?」

キョトンとした様子の要に、恐る恐る問いかけてみるが要は首を傾げるだけだった。

「I see.覚えてないなら良い」
「う、うん?あ、政宗」
「Ah?」
「片倉さんに見つかっちゃったな。執務、やるんだろ?」

要に困ったような笑みを浮かべながら聞かれてしまい、政宗は少し乱暴に後ろ髪を掻きながら立ち上がった。

「あぁ、そうだな。要、アンタ部屋で休んでな」
「へ?」
「俺の悪戯に巻き込んで悪かったな」

ヒラヒラと手を振り、部屋を出て行った政宗に要は首を傾げる。
そんな要に小十郎が話しかけた。

「本当に、覚えてないのか?」
「えと、その・・・何を、ですか?」
「気絶して、目を覚ました直後の事だ」

政宗よりは具体的に問いかけたが、やはり要の答えは否。
逆に「俺、いつの間に気絶してたんですか?」と問い返される始末。
本気で覚えていないらしい要に、小十郎は深追いせず部屋に送り返した。


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