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「・・・お疲れ様」
廊下にしゃがみこみ、床に転がる物体を指先でつつく。
やつれたと言うに相応しいそれは、ついさっき国主代理から解放された成実だった。
「要」
「何?」
「俺、もう無理・・・」
「あぁ、うん・・・お疲れ。何か食べる?」
女中さんから貰ったお菓子があるよ?と聞くが、答えは否。
食べる気力もないほど、成実は疲れ果てているようだ。
逆に「寝たい」なんて言い出すものだから、要は押入れから布団を引きずり出していた。
「自分の部屋で寝ればいいだろ?」
「それ無理。梵に八つ当たりされかねない」
「・・・政宗に?」
「梵さー、すぐにまた出かけるつもりだったのに、小十郎が政務に縛り付けたから、すげー機嫌悪いんだよ」
「・・・へぇ」
まさかその原因が自分です。
何て言える筈もなく。
文字通り布団に崩れ落ちた成実に羽織をかけてやりながら、要は引きつった笑みを浮かべた。
「あのー・・・」
暫くして成実が寝入ったのを見届け、要は天井に声をかける。
「俺を護衛するより、成実を見て置いてあげてください。今、侵入者があっても彼、丸腰で危険だし」
よろしくお願いします、と付け加え要は部屋を後にする。
返事はないが、付いてくる気配がないから律儀に守ってくれているのだろう。
丸腰で危険なのは要も同じだが、成実と要では伊達軍に占める重要度が違いすぎる。
要は所詮身元不明な客人でしかないが、成実は伊達軍を支える武将なのだから。
「まさか忍がついてたなんてなぁ。て言うか本当にいたんだ忍者って」
気がついたのは、政宗がいなくなった2日後。
政務の代理で中々部屋に来ない成実の代わりに、いつの間にか天井裏にそれはいた。
無口なのか、喋れないのか判らないが、身振り手振りを加えた意思疎通の結果。
それが成実の命で要の護衛に当たっている忍だと判明したのが、4日前。
「疚しい事はしてないから良いんだけど・・・」
常に見られるのは居心地が悪いと頭をかきながら、要は呟いた。
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