落ちた先は蒼 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


(3/4)

「おおぅ…」

案内された部屋の前で右往左往する要。手にした盆の上には、コロッケとお茶2人分。
お茶請けがコロッケはどうかと思うが、要の持っているミルクティよりかはマシだろう。
案内してくれた女中はとうの昔にココから立ち去っている。

「…ど、どうしよう」

まず声をかけていいのかどうかに悩む。
次、仮に入室許可が出ても両手が塞がっていて、襖を開けられない。
最後、コレを食べた後の反応に予測が付かなくて怖い。
一応要自身試食はしたが、女中達に勧めたら「政宗様を差し置くなんて!」と全力で拒否されてしまい、第3者の感想が無いままだった。

「うー…あー…」
「…何さっきから唸ってやがるんだ」
「う、わっ?!あ、わ…片倉さん?」

驚きのあまり落としそうになった盆を死守して、見上げた先には呆れた様な小十郎の顔。
少し視線をずらせば、部屋の奥で笑いをこらえている政宗の姿も見えた。
それを見て、要が少し眉根に皺を寄せれば、政宗はヒラヒラを片手を振った。

「sorry.部屋の前でウロウロしてるアンタが面白くってな」
「…え、それって」
「あぁ、気配がな。筒抜けだ」


溜息をつきながら小十郎は頬を掻く。
自分の行動が丸見えだったことに要は盆を持ったまま、どこかに逃げ出したくなった。
しかし小十郎に背を押され、気が付けば部屋の真ん中に座っている自身がいた。
持っていた盆は既に箸を手にした政宗の前に置かれている。

「コレが未来の料理か?煮てもいねぇし、焼いてもいねぇな…」
「えっと…揚げ物、コロッケっていう奴なんだけど」
「コロッケ、ね。で、中身が橙だが、コレは甘味なのか?」
「ううん。どっちかって言うと食事のおかずだと思う」
「hm…、作り方も気になるが、この中身も気になるな」
「あー…。あのさ、冷めてるから早く食べた方が…」

要の言葉に政宗は「それもそうか」と箸を持ち直す。
それをやはりというか、今まで黙っていた小十郎が制した。

「政宗様。いくら要が作ったと言えど、毒見もせずに召し上がるのは…」
「Ah?大丈夫だろ。小十郎も食えよ。要が折角作ったコロッケが冷めちまう」
「…」

何故、自分はココまで信頼されているのだろう。
と言うか政宗がある意味無防備すぎるのか、小十郎の頭が固すぎるのか。
いやいやこの場合、政宗が無防備過ぎなのに違いない。

視線で「毒なんか入れてねぇよな?」と確認を取ってくる小十郎に要は苦笑いを返しながら、そんな事を頭の隅で考えた。
今、要の頭の大部分を占めているのは、二人の反応、ただそれだけだ。
そろそろ正座している足が痺れて来たが、じっと二人がコロッケを口に運ぶのを待った。

「…」

沈黙が怖い。
二人とも咀嚼して、飲み込んだまま一言も発しない。
やっぱ口に合わなかったのか、と要が思い始めた頃、政宗が静かに箸をおいた。

「おい」
「っ!や、やっぱ口に合わなかった?不味かった?あ、謝るから首だけは落とさないで…!」
「…まだ何も言ってねぇだろ。これ、中身はカボチャか?」
「え、そう…だけど」

畳にぶつけんばかりの勢いで頭を下げた要は、政宗の問いに顔を上げ首を傾げた。
その政宗はコロッケを一欠けら、箸で摘んだまま今度は小十郎に視線を投げた。

「どうだ、小十郎」
「は…この小十郎、まさかカボチャにこのような調理法があるとは全く思いつきませんでした」
「…だよなぁ。要、後でコレの調理方法を教えろ」
「へ?」

言われた事を何度も頭の中で反芻する。
それはつまり?死ぬほど不味いから自身の手で改良すると言うことなのだろうか?
と言うかそうに違いない。
なんせこの二人、今の今まで美味いと一言も言っていないのだから。

「…聞こえなかったか?」
「あ、いや聞こえてる…けど、そんなに改良せざるを得ないほど不味かったかな、って」
「Ah?俺がいつ不味いって言った?」
「政宗様、お言葉ですが…まだ要に食べた感想を一言も告げておりませぬ」

小十郎の言葉の後、しばらく沈黙。
そして政宗が小さく「sorry」と呟いた。

「美味ぇよ。物凄くな。さすが未来の料理ってやつだ」
「…え?」

聞きおなせば、政宗は「二度も言わせるな」と言い、そのまま残りのコロッケを食す体制に入ってしまった。
それに困った要が小十郎に救いの目を向ければ、小十郎は「美味かったぞ」と短く返してくれた。
…どうやら彼らの口にコロッケはあってくれた様だ。


「…よかったぁ…」


そう呟き、要はようやく身体の緊張を解いた。
その様子に政宗と小十郎は僅かではあるが、口元を緩めたのだった。




⇒おまけ

<<>>

目次へ