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「ふぅ…」
この時代、ホースなんてものはないから、井戸から水を桶に汲み、それを柄杓で畑に蒔く。
2畳分程度の畑とは言えど結構な重労働で、水撒きのたびにホースのありがたみを実感した。
借りた桶と柄杓を元の場所に返し、自分の畑の傍に座り込む。
「考えたら、スプリンクラーも偉大ー」
大学の温室に設定されていたスプリンクラー。
確かあれは、決めた時間に水を蒔いてくれる優れものだった、はずだ。
最も温室は品種改良とかを専門としている人たちが使っていて、要は足を踏み入れたことすらなかったが。
「あー…」
ボンヤリと見上げた空は所々雲が浮かんでいて、澄み渡る青色だ。
そういや最近「帰りたい」なんて言わなくなった気がする。
いや当然帰りたいんだけど…どう言うんだろう。
一応、皆が俺がどういうものか知ってくれたから、落ち着けた?
うーん…部屋からも出るの、別に苦痛じゃなくなったし…。
でもやっぱり妹の稔の事は気になるわけで…。
「…やっぱ、帰りたい…」
じわりと溢れてきた涙を乱暴に服の袖で拭って、要は立ち上がる。
この広さの畑の水遣りの時間なんて知れている。
だけど半分抜け出してきたようなものだから、早く戻るに越したことは無い。
裾についた泥を叩き落とすと、要はもと来た道を急いで戻っていった。
「その…ごめんなさい」
「Do not mind it.成り行きってヤツだ」
「政宗様の仰るとおりだ。気に病むことは無い」
畑からの帰り道。
要の腕にあるのはカボチャ1個だけ。
対して小十郎と政宗は籠を1個づつ背負い、要の先を歩いている。
たくさんあった籠は要が自分の畑に行った間に、二人が運んでしまい、残っていた籠も今こうやって二人が背負っている。
早い話、要は手伝いに行ったはずなのに、手伝っていないと申し訳なく思っているのだった。
「でも俺、結局野菜眺めてて、自分の畑に行って、殆ど収穫して無いし。それなのに持ってるのコレだけなんて…」
「Ha!そんな事か。まぁ、小十郎の作る野菜は美味いし見栄えも良いからな。そっちの知識があるなら、見とれたくもなるんだろ?」
「え、まぁ…そう言われたら、そうだけど」
「じゃぁ良いじゃねぇか。なぁ、小十郎?」
クシャリと要の頭を撫でた後、政宗が小十郎に問う。
話を聞いていた小十郎は、肯定を示す意味で口元に小さな笑みを作った。
「そういや要。料理は出来るのか?」
「料理?1人暮らししてたから、少しは」
「…だそうですよ、政宗様」
「?」
話が飲み込めない要は首を傾げる。
気のせいじゃなければ、政宗が嫌に楽しそうに見えるし、小十郎は「またこの御方は」なんて、半ば呆れているように見えた。
そして政宗は要が抱えていたカボチャを2・3回叩き一言。
「よし、要。未来の料理を作ってみろ」
「え?」
とんでもない発言(と言う名の命令)をしたのでした。
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裏タイトル『筆頭と距離を縮めよう!』
*It is a joke.
訳:冗談だ
*Entrust it!
訳:任せろ!
*Do not mind it.
訳:気にするな
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