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「やば、少し遅くなった…!」
段々空が明るくなる頃、作業着に身を包んだ要は小走りで畑に向かっていた。
いつも通りに目が覚めたのまでは良かった。が、一体何を寝ぼけていたのか、着流しに着替えてしまったのだった。着流しでは裾に土がつくし、何より農作業に向かない。
そんな着替え間違いに気付いたのは、顔を洗いに行った時だった。
慌てて着替えなおしたが、15分〜20分ほど予定より遅れてしまった。
「ごめんなさい、遅れまし…たっ?!」
野獣対策に儲けられた門を超えた先、小十郎だけだと思っていたのにもう1人いた。
「Hey!Good morning 要!」
「お、おはようございます…」
「すまねぇな要。政宗様も着いて来ると聞かなくてな」
やれやれとため息を付く小十郎。
1国の主が野菜の収穫現場にいて大丈夫なのか、律儀に作業着姿にまで着替えて!
少しだけ奥州の行く末が気になった要だった。
「それで、今日は何を収穫するんですか?」
「あぁカボチャだ。今年はかなりの上物が出来てるからな?」
「あ、それは楽しみです!」
「カボチャは重てぇぞ。その細腕で持てるか?」
袖をまくって、むき出しになった要の腕を指差し、政宗がニヤリと笑う。
確かにこの戦国の世で刀を振るう人の腕には敵わないだろうが、要だって元の世界では、大学の農地で機械に頼らず鍬を振るっていた身である。
その細く見える腕にだって、それなりに筋肉はついている。
「む…ば、馬鹿にしないでくださいよ」
「It is a joke.アンタ鍬持ってんだろ?だったら心配してねぇよ」
ぞろぞろと3人歩きながら、収穫場所へ向かう。
やがて立派なカボチャがゴロゴロと転がる畑に到着した。
「うわ、すご…!」
「oh…小十郎、今年のは随分すげぇな」
「えぇ気候に恵まれたものですから」
色や大きさ形のどれをとっても、現代で売っているカボチャなんて、お呼びではない。
要も一度だけカボチャを栽培したが、ココまで立派なものは出来なかった。
この地の土の良さは知っているから、後は小十郎の腕なのだろう。
ひたすら感嘆の声しか出せなかった。
「とりあえず量が多いので、今日はココから右半分の畑のを収穫しようかと」
「ok!Entrust it!」
「はいっ!」
「採ってきた物は籠を用意しておきますので、そちらにお願いします」
そう小十郎が言うが早いか、政宗と要は二人別方向に走り、各々収穫を始めるのだった。
「…打ち解けてくれた…のか?」
ココに来るまでの会話を思い出し、小十郎は呟く。
事の発端は昨日、要の部屋から政宗を回収した後に遡る。
『小十郎。明日、俺も畑に連れて行け』
『政宗様…?』
『要はいつも俺がいきなり来るから、ビビるんだろ?だったら先に俺がいたら問題ねぇだろ』
『ハァ…』
どうしようもない御方だ、と小十郎は微かに痛んだ胃を押さえる。
要は明日小十郎しか畑にいないと思っている。
(政宗様…その行動が要を驚かせるとお気づき下さい…)
しかしそうは思っても小十郎自身、要が政宗を差し置いて、自分と仲良くするのは政宗の立場がないので、ある意味コレは良い機会だとも言える。。
それに場所は部屋ではなく、畑だ。畑にいる要は割と落ち着いている。
小十郎と要が仲良くなった場所だって、畑だ。
と言う事は、政宗と要だって仲良くなれるかもしれない!
胃の痛みで何だか思考が変な方向に走って行った気がするが、小十郎本人は当然気付いていない。
ただ、辛うじて残っていたマトモな思考が
『では、本日のこの山積みの執務を今から1刻以内に終わらせれば、この小十郎、明日政宗様が畑に居ても何も言いませぬ』
そう、条件を出したのだった。
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