落ちた先は蒼 | ナノ


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「あ、要・・・って、え、何?!目ぇ真っ赤!」
「しげ、ざね・・・」
「とりあえずそこにいて!俺、手ぬぐい貰ってくるから!」

あの後、城から漂う美味しそうな匂いに惹かれ、泣いたせいで空腹を覚えた要は素直に戻ってきたのだが、待ち構えていた成実に見つかった。
その成実は“見るからに泣いていました”と言う要を見つけ、何があったのかと混乱しながらも手ぬぐいを取りに城に引っ込んでいった。

「お待たせ。何?小十郎に何か言われた?」
「ううん、違う」

渡された手ぬぐいは、冷たくて目に当てると凄く気持ちが良い。
縁側に座り、要は手ぬぐいを抑えながら、成実の質問に首を振って答えていった。

「飯、食える?」
「うう・・・うん、食べる」
「じゃ部屋に行くか。あ、ちょっと。俺の膳、要の部屋に運んでおいてくれる?」

たまたますれ違った女中に声をかけながら、成実は要の手を引いていく。






部屋に着いて食事になっても、二人の間に会話は無く、それが要に考える時間を与えた。

(どうしよう、心配かけてる)

要も馬鹿ではないから、成実が自身の監視役を請け負っていると言う事は薄々気付いていた。
でもその事を抜きにしても、親しく接してくれているし、現にこうやって心配してくれている。
自分はそのことに甘え、帰れないと1人メソメソしてイジけているだけじゃないか。

帰れないと言う事実は変わらない以上、前に踏み出さねばならない。
それに前に踏み出さねば、自分が何者なのかも判らないままだ。
しかしそのためには現状を知らないといけない。
今自分が知っているのは、ココが戦国乱世の奥州である、と言うことだけだった。

それだけだと情報が足りない。
が、いくら領主に気に入られているとは言え、素性不明な奴に誰が情報を与えてくれると言うのか。
ならば素性が判れば情報をくれるのだろうか?
いやいやいや、要の素性はこの世ではあまりにも奇妙すぎる。
逆に怪しまれて、それこそ人生幕引きかもしれない。

(だからって何も言わないままだと・・・俺、ずっとこのままだ)

このままなら良い。
領主が飽きて、捨てて来いと言われたらそれこそお終いだ。
帰りたいと口にしてはいるが、要はいつきの村の位置を知っているはず無い。
第一、捨てて来いならまだマシだ、あの目で斬り捨てろなんていわれたら、それこそ人生(以下略

・・・考えただけで寒気がした。

とにもかくにも、要はいま情報が欲しい。
そして恐らくココにいる伊達の人間は要の素性を知りたがっている。

『Give and Take』

要の脳裏にそんな言葉が過ぎった。
そして過ぎった直後、要の口は勝手に動いていた。


「成実・・・俺の事、話そうと・・・思うんだ」




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