落ちた先は蒼 | ナノ
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「思ったより・・・怖くない人・・・かも」

こちらに背を向け、再び畑を耕し始めた小十郎をチラチラを盗み見しながら、要は呟く。
土地もそうだが、あり難い事に農具まで貸してくれたのだ。
きっと顔で損している人なんだ。そう結論付けて、少しは近寄る努力をしようと決心した。

「でも・・・あの人は無理」

ここに要を拉致してきた本人。
この地を治める領主である奥州筆頭、伊達政宗。
何が苦手、と言われたら返答に困るのだが、強いて言うなら「目」だった。
追い詰めて逃がさないと言う肉食獣を髣髴させる目。
その瞳に自分の姿があると思った瞬間、要はもうどうしたらいいのか判らなくなるのだ。

「けど、あの人が一番・・・偉いんだよな・・・」

政宗が要を気に入っている以上、要はココから出られない。
じゃぁ気に入られないようにすれば、出られる可能性もあるのだが、それは下手をすると要の人生の幕引きの可能性もあった。
だが流石に見知らぬ土地で20歳と言う短い人生を終えたいと思うほど、要は死にたがり屋ではない。
ハァ、と漏れる溜息をいったい誰が咎められようか。

「帰りたい・・・」

1日に何回呟いているのか数えたくも無い一言。
しかも「何処に」帰りたいのか、呟く要本人も判らなくなってきている。
と言うのも、いつきの村に帰ることは出来ても、要がいた世界に帰ることは出来ないからだ。


―おかえりなさい!

―やっと戻ってきた!!

―****が戻ってきたんだ!もう北は大丈夫だね!


この世界ではじめて聞いた言葉。
動揺しすぎて肝心なところを聞き逃したのは、悲しいお約束だ。
兎にも角にも、自分がこの世の何なのか判らないまま、要はこの世に放り出されたのだった。

「・・・稔」

最後まで傍にいた5つ下の妹の名を呟く。
彼女は突然兄がいなくなったと慌てていないだろうか。
ああでも、戻れないと言うことは、存在も無にされていることだろう。
と言う事は、彼女の中から自分と言う記憶が消えているかもしれない。

「うわ・・・嫌だな・・・」

零れた涙をゴシゴシと袖口で拭う。
泣いたって何も変わらない、でも泣かなくても何も変わりやしないのだ。

「ぅ゛〜〜っ・・・」

袖口が濡れても、涙は止まる様子を見せない。
このままではいけないと焦っていると、すぐ後ろで足音がした。

「おい」
「・・・っ!」
「俺は城に戻る。てめぇも朝餉までには戻って来いよ」
「っ・・・は、い」

何とか返事をすると、足音は遠ざかっていく。
完全に足音が聞こえなくなると、要は堰が切れたように、声を上げて泣いた。


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