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全く変な奴だ。
畑を耕し、水をやりながら小十郎はそう思った。
あの後改めて畑の場所を指し示せば、要は少し戸惑った後嬉しそうな表情を浮かべ走っていった。
土を触って感動していた辺り、野菜作りが好きなのは本当なのだろう。
おまけに互いに野菜を作るのが好きと言う同士だと知ったからか、要の警戒は幾分か和らいでいた。
野菜の事になると俄かに饒舌になるのが、その証拠だ。
「か、片倉さんっ・・・」
「あ?どうした」
「頂いた畑に・・・苗を植えようと思うんですが、その・・・」
名を呼ばれ小十郎が振り返るが余程言いにくいのか、要の視線は、忙しなく泳いでいた。
「怒らねぇから言ってみな」
「か、買いに行くにも俺、お金ないし・・・土の質がいいのは判ったけど、この時期何を植えればいいか判らなくて・・・だ、だから苗とか分けてもらえませんか?」
「何だそんなことか。構わないぜ」
「あ、ありがとうございます!」
後ろに花が咲きそうな勢いで、要が笑みを浮かべる。どうやら本当に、農作業が好きらしい。
そんな要を見て、小十郎も思わず頬を緩めかけるが慌てて己を嗜める。
(まだコイツが政宗様に害をなさないやつと決まった訳じゃねぇ)
思い出すのは昨日の晩。
小十郎の部屋を訪れた成実が口にした一言。
『なんとなーくなんだけどさ。要って俺らと違う世界の人間なんじゃないかって思う』
『どういう意味だ、それは』
『いやぁ、実はさー』
荷物を見せてもらった、と身振り手振りを交えながら成実が説明することで、小十郎はその言葉を理解した。
それはつまり素性が今以上に判らないと言う事。
本来なら拷問でもして、洗いざらい吐かせたい所だが政宗が要を客人宣言してしまった為、それも叶わない。
最もあの演技でも無さそうな警戒ぶりを見ていれば、少なくとも政宗に害を加えるようには見えないのだが。
(むしろ他人が見れば、こちらが何かしたと思われる可能性のほうが高い)
「どうしたもんだかな」
与えられた畑に戻り、幸せそうに土いじりをしている要を見やり、竜の右目と名高い男は溜息をついた。
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