落ちた先は蒼 | ナノ

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「・・・要ってさぁ、何してた人?」
「え、農業科の大学生だけど」
「へ、へぇ・・・?」

目の前に並べられた数多の見知らぬ物を見て、口にした疑問は更なる疑問を抱えて戻ってきた。
この戦国の世に生きる成実は、この奥州伊達軍の一武将であり時には軍議にも参加する。
それゆえ何処にどんな大名や人がいるかは、ある程度は把握しているつもりでいた。
だと言うのに、「農業科」と言う所属や「大学生」と言う身分は聞いたことが無かった。

(梵を呼んだ方が良いはずだよなぁ・・・)

梵、即ち伊達政宗を思い浮かべ、成実は1人悩む。
今の今まで、要を変わった南蛮人だと思っていたが、そうではないらしい。
“でじかめ”という周りの景色を写し取るカラクリや、“ぱそこん”というよく判らないカラクリ(要はこれで、れぽーとを作るんだ、と言っていたが、成実には“れぽーと”が何なのかすら判らなかった)
何より驚いたのが、墨を使わないで文字が書けると言う筆だった。
それを思えば、この部屋で(要の監視も兼ねて)自分に与えられた仕事をこなしている時、随分と要が珍しい視線を寄越した理由も判る気がした。

話が反れたが、本来なら素性の知れぬものが、自分の手の内を明かしている。
この状況に城主を呼ばないのはおかしい話である。
が、今目の前にいる要は城主を、政宗にかなりの警戒心を抱いている。
今此処に政宗を呼べば、それこそ絶叫するか、気絶するか、どちらかは避けられないだろう。

(・・・後で報告すればいいか。天井には黒脛巾もいるし)

一瞬だけ、天井に視線を動かし、成実はそう結論付けた。
最も本来なら、処罰になりそうなこの行動を取るのも、成実が政宗の従兄弟だから成し得る、と言う理由があるのだろう。
そして頭を切り替え、要に向き直る。

「農業科だっけ?そこで要は何してたの?」
「えぇと、農業科で作物作るのに必要な肥料の開発してた」
「要の家ってどっかのでかい農家?」
「え?俺の家は農家じゃないけど・・・」

はて?と首を傾げる2人。
やがて要はリュックに両腕を突っ込むと、小さな土嚢のようなものを取り出した。

「何コレ」
「んー、俺が試作で作ってみた肥料なんだ、けど・・・」
「けど?」
「いつきの所で試そうと思ったのに、俺・・・ココに連れてこられて・・・」
「う、あ・・・それは、ゴメン」

俯き、目元を擦る要に成実はただ謝る。
いつき、と言うのは日の本最北端で農民を束ねている少女の事だ。
元々いつきの下に身を寄せていたはずなのだ、要は。
それを本人の意思を無視して、ココにつれてきたのは言わずもがな、政宗であった。

「えぇと、あのさ、それ試してみたい?」

苦し紛れに成実は言葉を繋ぐ。
出来るなら良い方向に言葉進むようにと信じながら。

「出来たら・・・試したい」

俯いたままではあるが要はゆっくりと首を縦に振った。

「じゃぁさ、城の裏手に畑があるんだ。そこに夜明けと同時に行ってみな。話は俺が通しておくからさ」

そう言いながら、要の頭をゆっくりと撫でる。
ただ内心は「話を通しておく」と言ったものの、うまく行くかと言う不安に満ちていたが。




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