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始まりの雨
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『・・・っ、げほっ・・・!』


燃え盛る炎の中。1人の少女が咳き込み、その場に崩れ落ちる。
漆黒の髪や白い肌は煤や灰で薄汚れ、着ている小袖も元は薄い桃色なのに所々焼け焦げてたせいか黒が目立つ。


『ぁー、失敗した・・・もう無理・・・』


チャラリと金属音を鳴らし、少女は首元から枠にはまった水晶玉を取り出す。
親指の先ほどの大きさの水晶を蔦が絡まるような細工されたソレ。
本来透通るほどの輝きを持つはずだが、今は大分曇っていた。


『あぁ、もう・・・』


残る力を振り絞り、少女は直ぐ目の前にある祠まで移動する。
木製だというのに燃え盛る炎の中、祠は火が移る事無くそこに立っていた。
その様子を眺め、少女は諦めたようにその祠に背を預けた。


『順番、間違えたのかなぁ・・・

まず先に延焼防ぐ為に結界を張ったでしょ?

それから村と畑に火が行かないように結界を張って・・・

で“彼”に雨を呼びに行って貰って・・・

ココに結界を張っ・・・あぁ、ココで間違えたのか・・・』


1人呟くその少女の目は酷く虚ろで、目の前の惨状も見えていないようだった。
いや実際に少女の目は既に数分前から徐々に光を失っていて、今ではボンヤリと周りの形が判別できる程度しか見えていない。


『私が中に入ってから、結界張ればよかったんだー・・・

でももう張りなおすだけの力なんか残ってないし・・・』


少女が祠に手を伸ばせば、言葉通り。
見えない壁がそこにはあった。


『うーん・・・何ていうか、なぁ

一応、職務全うしたから、文句言われないよね

あーでも・・・約束、これじゃ守れないや・・・

・・・悔しいな・・・』



目の前が赤色に染まる。きっと空も同じ赤色なのだろう。
木々が生い茂り、青空の広がる普段の景色からは想像もつかないほどに。


『・・・雨、早く降らないかな』


力なく呟くと少女はゆっくりとその瞳を閉じた。

























少女が目を閉じた直後、空が赤から灰に染まりはじめた。
やがて光を遮るほどの分厚い雲が辺り一体を覆いつくし、少女が望んでいた雨がやって来た。


「あぁこんなに無理しちゃって、本当・・・」


不意に少女の前に男が音もなく現れる。
今の空に似合わない空色の着流しを着た男は少女を抱き上げ、その眉間に皺を寄せた。


「本当、無理しすぎ」


汚れた肌に髪、焼けた小袖の奥に見え隠れする火傷の数。
一番酷いのは草履が焼けたせいで負った足の火傷だろう。
本人は痛みを感じないから、気付いていないようだが他人から見れば結構酷いものだった。


「・・・こんな言い方も考え物だけど、お嬢・・・人間じゃなくて良かったね。

人間なら確実に足失くしてるよ。

で・・・どうしようか。状況が状況だし、あの方が来るだろうから預けようかな」


ハァ、と溜息をつき、男は軽く地を蹴る。
次の瞬間、少女を抱いたまま男は姿を消していた。


 


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