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伝説再来
(1/4)


「えっとね。ちょっと前に拾って面倒見た子いるのよ。あ、面倒見たって言っても少しの間だけ、ある日突然あの子いなくなっちゃったし。それでその子が無口で赤い髪の子で、私が小太郎て名前付けたのよ。人の世の名前事情は知らないけど、そこまで目立つ名前じゃないと思ってなんだけど・・・。」


まぁきっと人違いでしょ、と付け加えながら凛は話を終わらせる。
各々黙って話を聞いていた4人だが、何か思うところがあるのか次々と口を開き始めた。


「確かに。しかし、凛。赤毛の童はそうはおらぬと思うぞ?」

「ええ、わたくしもあかというけいろはあまりきいたことがありませんね」

「それに口がきけないのだろう?ほぼ風魔と断定して良いと思うが」

「むしろ風魔とは違うって言う証拠が欲しいぐらいだね」

「えええぇー・・・」


思わぬ反応に凛が疑うような声を上げる。
しかし4人からすれば、どこをどう判断すれば人違いだと思うのか理由を聞かせて欲しい。
そう思ってしまうほど凛の話す小太郎と、風魔小太郎像は一致していた。


「ときに、いまそのものをさがそうとかんがえたりはしないのですか?」

「え、何故?」


謙信の問いかけに何度が瞬きをした後、凛は首を傾げる。


「はなしをきくかぎり、そのものとあなたさまはちゃんとしたわかれをつげていないのでしょう?」

「そうね。あの子が残した“おせわになりました”って地面の書き置きだけ。でも・・・あの子が自分の意思で私のもとから去っていたとすれば、何か私に思うところがあったはず。ならばわざわざ出て行った先の相手が面見せても・・・良い思いはしないでしょう?」

「たしかにそうでしょう。ですが、なにものかによってつれさられた、ということはかんがえないのですか?」

「私が人の子ならばそう考えたでしょうね。けれどその可能性はないわ。あの子が浚われたら一番に風が教えてくれる。あの日、それは無かった。・・・甲斐の地を出た、って言うところまでは追えたけど、それ以上先は判らなかったわ」

「わからない、とは?」

「えぇ。私、その地での出来事は知ろうと思えば全部把握できるの、こんな姿でも土地神だから。でもあくまで自分の守護している場所だけ、一歩でも越境されたら判らなくなるのよ」


そろそろ話題に飽きてきたのか、帯止めの紐を弄りながら凛は投げられる問いに1つ1つ返していく。
一国の主を前にして礼儀のなっていないその態度。思わずかすがは拳を握り一喝してやろうかと思い悩むが愛すべき主が気にした様子も無いし、何より同じく場に控えている佐助が目で“やめておけ”と訴えていた。
確かにかすが自身、凛の力(と呼んでいいのか悩む)は己をはるかに上回っていることを身をもって実感しているため、迂闊に手を出すのは得策ではないことぐらい判っていた。


(だがあの態度・・・!謙信様に向かって許せない・・・!)

(まぁ落ち着きなって、かすが。あれでも十分敬意示してるんだからさ)

(あれでか?あのいかにも“暇だ、早く終わらせたい”と言いたげなあの態度だぞ)

(そ。姫さん、本当に相手にしたくなかったらもっと言葉に棘があるし、何も話したがらないよ)


目と目で交わされる会話。
不意に何かに気がついたように佐助が視線を部屋の外に移す、そして。


(かすが、気付いてるか)

(・・・あぁ。私は謙信様達を)

(了解、俺様は食い止めてくる)


瞬き一つの間に消える佐助と、クナイを取り出すかすが。


「む、何事だ?」

「つるぎよ、どうしましたか?」

「話し合いの場で申し訳ありません。ですが何者かが向かってくる気配有り」

「なにそれ、敵襲ってこと?」

「恐らくは。・・・今、猿飛が防衛に向かっています」

「・・・軍神よ」

「わかっています」


かすがの後ろでそれぞれが己の獲物を持ち、まだ見ぬ侵入者に対して攻撃の態勢を取る。
巨大な軍配斧を構えた信玄が視線だけを後ろに向ける。


「凛、心配はしておらんがワシ等の後ろにおれ。そしてけして自ら手を出してはならぬぞ」

「・・・はいはい。信玄が強いのは信用してる。けど窮地に陥ったら遠慮なく行くからね?」

「ふふふ。なんとこころづよいおことば。ですがおてをわずらわせるわけにもいきませんから、なんとしてもわたくしたちでくいとめねばなりませんね」


緊迫した空気の中交わされる一見穏やかな会話。
それを打ち破ったのはこの中で一番気配を探るのに長けているかすがだった。


「・・・っ!来る!」

 


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