×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


 
伝説の回想
(1/5)

其れは二十年近くも昔の出来事。

己が風魔小太郎でもない、只の赤毛の忌み子だった頃。




**************



赤毛で口もろくに利けぬ餓鬼。
それだけで、産まれた村は己を忌み、貶し、折檻し、迫害した。
最も己が生後すぐに殺されなかったのは母親と言うべき女が居たからかも知れないが、己の記憶にその姿はない。

兎角忌み子の己は、村の片隅にあった蔵に監禁され、犬畜生でも食うか食わぬか躊躇うような微量の毒の混じった飯が1日1回。
村の大人共が憂さ晴らしの捌け口にと己の下に来るのが1日数回。
よく死ななかったと思う。


そして転機は村に賊がやってきた時。
賊が放った火の騒ぎに紛れ、蔵を抜け出せた己は生まれて初めて村を出て、近くの林に逃げ込んだ。

とは言え生きる術も持たない己が林で生き延びれるはずも無く。
我武者羅に逃げて3日目位に遂に己は力尽きた。
周辺の地理は愚か、方向すら判っていないのだから現在位置すら判らないまま。
ただ木々の隙間から覗く空が恐ろしいほど青色だった。


 死 と言う単語が頭を過ぎり、大人しく目を閉じた瞬間。


 彼女 は俺の目の前にいた。



「・・・死にたい?生きたい?」


唐突に投げかけられた問いに困惑したのを覚えている。
人との会話をしたことが無い故、言葉の出し方を伝え方を知らなかったから。
どう答えていいか判らないまま、ゆっくりと目を開ければ己より若干年上程度の女、と言うより少女が立っていた。


「質問に答えなさい。アンタはこのまま死にたいの?それとも生きたいの?」


質問に対する回答を求め、彼女が威圧的に再度問いかける。
何か言わねばと口を開けど、出てくるのは無音。
はくはくと無様に口を動かす己に何か気がついた彼女はその場にしゃがみ込む。
距離が近くなってみた彼女は己とは違う黒い真直ぐな髪に、黒い瞳だった。


「・・・もしかして、口が利けない?」


その問いに首を縦に振り、是と示せば彼女の眉根が顰められた。
そして何か2,3呟いたかと思えば、再び己に問いかけた。


「いい?此処でそのまま寝そべったままがいいか、体起こして飯にありつくか。寝そべったままがいいなら首を横に、飯にありつきたいなら首を縦に振りなさい」


言われた事をゆっくりと頭の中で理解する。
出した結論は首を縦に振る事。
首を縦に振った己を確認すると、彼女からは威圧的な空気が消え代わりに笑みが浮かんでいた。


「よし。アンタがそう望むなら、私は手を差し伸べるわ。幸運だと思いなさいよ、私が人の子を助けるなんて2回目なんだからね」


目の前に伸ばされた手に言う事を聞かない己の手を伸ばす。
傷塗れの己の手を、綺麗な彼女の手に重ねた瞬間、体が軽くなったのは今でも思い出せる。


「!?」

「何?どうしたの?ほら、ご飯食べるんでしょ?」


己の手を引き先を歩く彼女の背を眺める。
何故己を助けるんだ、とか一体どこの娘なんだ、其れよりこんな場所に何故彼女1人だの。
疑問が尽きないが、其れを伝える手段が無いため全てを飲み込む。
最もあの村より酷い事は無いだろうと妙な確信があったのも事実だった。


「ほら、好きなだけお食べ、心配しなくても毒は入ってないわ。でもアンタ多分暫く飲まず食わずみたいだから、一気に食べたら吐くわよ」

「・・・」

「別に食べ方の作法に騒ぎやしないわよ。あぁ、遠慮はいいわよ。私も食べ切れなくて捨てるの憚れていた所だし」


大きな葉の上に広げられた其れ。
1人分の食事と言うよりは、雑多に集められた食料と言う感じだ。
目の前の彼女に対する疑問が深まるが、生きることを望んだ体は食事を求める。
恐る恐る手を伸ばした己を確認してから、彼女も食料に手を伸ばした。

 


目次へ