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越後からの来客と乱入者
(1/5)

―明日、越後より凛との面会を求め、来客がある。


朝一番、それこそ朝餉を貰って部屋でボンヤリしていた時である。
突如部屋を訪ねてきた信玄は凛を見るなりそう告げた。
当然凛は驚く。まさに寝耳に水の状態。
そもそも凛には越後からわざわざ会いに来るような知り合いなんて思いつかない。


「なにそれ、何で私に会いに来るのよ。知り合いなんていないわよ」

「先日の部下の非礼を詫びたいんじゃと」

「部下の、非礼?・・・、・・・あ」

「思い出したか?」


知り合いと言うのかはさておき、確かに凛は越後に(一方的な)知り合いがいた。
必死になって彼女との会話を思い出すと、一つの名前が思い浮かんだ。


「謙信様、だっけ?」

「む、知っておったか?」

「ううん、確かあの金髪さんが確かそんな名前を言ってたような・・・」

「軍神はワシの好敵手じゃ。悪い奴では無い。だから凛、明日、軍神と会ってくれるな?」

「・・・。それ、答え判りきって聞いてるでしょ」

「無論。断わるはずがないと思うておる」


全くその根拠は何処から出てくるのだろうか。
とは言え凛にわざわざ詫びに来る人間を拒む理由はない、むしろ文句の一つ二つを言ってやる機会だと言い換えても良いだろう。


「着飾らないからね、媚びないからね」

「よい、十分じゃ」


屈折した凛の答えだが、満足のする答えだったらしく信玄は凛の頭を一つ撫でると部屋を出て行った。
そして残された凛は信玄の気配が遠のくのを確認してから、その場で盛大にうろたえ始めた。


「ちょっとぉぉぉぉ!何で明日なのよぉぉぉ!!心の準備ってのがあるでしょ、普通!!しかも信玄の好敵手って、下手を打てないじゃない!どうでもいい奴だったらさっさと謝らせて、さっさと帰らせたらいいのに・・・!」

「・・・。・・・、あの、凛様?」

「え゛、あ・・・桜さん」


ゴロゴロと畳の上で転がっていた凛の視界にお茶を持ったまま、思いっきり困った表情を浮かべている桜が上下逆さまに映る。
その桜は桜で着物が着乱れるのも気にせず、色々物騒なことを叫びながら転がり続ける凛に軍医を呼ぶべきか否か本気で考えていた。
しかし自分を見るなり、顔全体で「げ、とんでもないもの見られた」と現す凛にとりあえず正気は保っているらしいと判断して、お茶を差し出してみることにした。


「・・・。お見苦しいものをお見せしました・・・」

「本当、一瞬気が触れてしまったのかと・・・」


お茶を飲み干し、その場に平伏して桜に謝る凛。
平伏なんて恐れ多いと桜は止めたが、凛の気が済まないと言われてしまったので、もう何も言わない。
そして聞けば、明日ここにやってくる来客の事で1人騒いでいたらしい。


(・・・随分、微笑ましいですわねぇ・・・)


何も気にすることが無いなら、好き勝手振舞えばいいのだ。
土地神である凛は人間と言う小さな範疇に収まる存在ではないのだろう。
だというのに本人は無自覚だが、信玄の面子を立たせ、そして守るために自分の振る舞いを考えあぐねていたのだ。
その方法が若干物騒だったが、それはそれとして。


「私は直接お逢いしたことはありませんが、上杉様は素晴らしいお人柄だと。ですから素直に凛様が思ったことを伝えれば宜しいのでは?」

「・・・そういうもの?」


平伏していた凛が漸く顔を上げる。
その顔はまだ少し戸惑いの色が強い。だから桜は続ける。


「えぇ、わざわざ文ではなく直接甲斐にまで来られるのですから、なにか思うことがあるのでしょうし・・・」

「あ、そういえば・・・そうよね。詫びたって言う形が欲しいなら書状でも送れば済む話なのに」


ふむ、と凛は少し考え込み、顔を上げる。その顔はさっきよりスッキリしていた。


「とりあえず話を聞く。で、理由によっては文句を言う。逆に私が納得すれば素直に詫びを受け入れるわ」

「凛様がそう決めたのならば、それを貫いてくださいまし」


桜が安心させるように微笑めば、凛もつられるように笑みを浮かべた。

 


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