お披露目
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「よくお似合いですわ」
「・・・。・・・だ、だれ?」
姿見を指差せば、鏡の中のそれも指をさし返してくる。
冷静に考えれば鏡の中にいるのは凛自身なのだが、何故か認めたくない。
「あら、いやですわ。凛様。女は幾らでも化けるんですのよ?」
クスクスと笑う口元を袖で隠しながら、桜は片手であたりに散らばっている化粧道具を片付ける。
「それに頬に白粉を軽くはたいて、薄く紅を差しただけ・・・。言うほど手は加えておりませんわ」
「や、でもっ・・・!」
慌てて鏡から桜のほうに振り向けば、シャランと普段はしない音が鳴った。
「良いじゃありませんの。折角のお披露目ですもの、仕立てあがったお召し物も素敵ですわ」
「・・・」
何か反論するのも疲れてきて、凛はゆるゆると鏡に向き直る。
鏡の先には既に疲れきった顔の自分がいた。
いつもと違い、肌に白粉をはたかれ、唇には薄い紅。
そして寝着と違い、先日届いたばかりの紅い着物に身を包む。
袖と裾を中心に咲き乱れるのは百合の花。
極めつけはココに来ていくらか伸びた黒髪を少し纏め上げた簪。
全体的に金色の細工だが、所々赤い瑠璃玉が存在を主張していた。
「・・・ほんと、誰なのよ」
間違いなく自分なのだが、どうしても認めたくなくて凛は吐き捨てるように呟いた。
(て言うか・・・。ココまで正装したの何時ぶりだろう)
ボンヤリと記憶を辿るがここ数年はあの祠から出歩かなかったし、そもそも誰かと形式ばった対面も無かった。
(となると・・・あぁ、あの時以来か)
上座の見えない長座敷の一番下座に座らされ、奇異の目や汚点を見るような目を向けられた。
投げかけられる言葉は全て貶すような物ばかり、集団の恐ろしさを知ったあの時だ。
けれどその中で味方が出来た時の喜びを知った瞬間でもあってー・・・
「あの・・・凛様?そんなにお気に召さなかったのですか?」
「え、あ・・・桜さん?」
「その・・・眉間に皺を寄せて、姿見を睨みつけておいでだったので・・・」
「そんなに怖い顔してました?」
「えぇ」
頷く桜に凛はしまったと顔を顰める。
どうやら気持ちがそのまま顔に出てしまっていたらしい。
違うんです、と弁解しようと手を動かした時、チャラリと何かが音を立てた。
「あれ?いつの間に・・・」
着付けのときに仕舞っていたはずの水晶玉。
最初こそ全体が濁っていたそれは、中心部に僅かな濁りを残す程度にまでなっていた。
その事に驚きつつも、凛は慌てて水晶玉を戻して桜に向き直る。
「ちょっとね、昔を思い出していただけなんです。気にしないでください」
「そうですか・・・」
何か煮え切らない桜だが気にするなと言われてしまった以上は詮索も出来ず、そのまま手にしていた化粧道具を部屋の隅に押しやった。
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