誘拐未遂事件
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一番初めに異変に気付いたのは、桜だった。
「凛様、先ほど反物屋から連絡がありまして、明日には届くそうで・・・凛様?」
空っぽな部屋。
荒らされたような形跡は見当たらないが、この部屋の主が自力で歩けないのは桜自身よく知っている。
「・・・凛様?」
あの姿は仮初で、本当は形を持たないと部屋の主はさっき語っていた。
ならば元に戻ったのか、と一瞬思考をめぐらすが恐らくその可能性は限りなく薄い。
名前を呼んでみても、当たり前のように返事はなかった。
不味い、と桜の頭が状況判断したとき、背後に突如気配が現れた。
「長!」
桜が長と呼ぶ人は、真田忍隊が長、猿飛佐助その人。
しかし今の彼には何時もの飄々とした様子はない。
「桜、アンタはここで待機。今、俺様の鴉が後を追っている」
「っ、御意!」
慌てて頭を下げれば、佐助は何も言わずに羽だけ残して姿を消した。
待機と告げられた時点で"何の"後を追っているのか、言われなくても判ってしまった。
「凛様、どうかご無事で・・・」
何もすることが出来ない桜は部屋の主の無事を祈り、そっと目を閉じた。
その頃、目を覚ました凛は手足を縛られ米俵の如く金髪美人に担がれながら、森の中を移動していた。
(どうしよーかなー・・・)
浚われる姿を見て、ざわめきだした森の木々には大丈夫だからと静まらせた。
・・・が、問題はこの状況をどうやって、誰に伝えるかだった。
「私、どこに行くんですか?」
「謙信様のもとだ!」
「なにゆえに?」
「貴様の事だろう?甲斐の虎から寵愛を受けている姫と言うのは。・・・まさかこんな餓鬼だとは思わなかったが」
「へー・・・」
寵愛って何よ、そもそも姫じゃないんですけど。
第一、言うほど信玄は私の元に来ないのよ、彼だって一国の主で忙しいんだから。
って餓鬼じゃないんですけど、コレでも200年は存在しているんですけど。
私からすれば、美人さんの方が十二分に餓鬼なんだけど。
等など、様々な思いを込めれば、金髪美人が少し動揺したのを感じた。
「と、とにかく貴様は甲斐の虎の弱みだ!よって人質として浚わせてもらった」
「・・・それはどーも。・・・?」
その謙信様とやらはなんと愚かな命を下したんだ。
など凛が呆れながら空を見上げれば、木々の隙間から時折見える黒い固まり。
離れないよう必死についてくる姿に、凛はとても見覚えがあった。
「・・・ぁ」
「ちっ!尾けられていたか!」
「え?」
木の枝を飛び移っていた金髪美人が、突如進路を変えて、上へと跳躍した。
そして森を突き抜けると、黒に向かって光る何かを投げつけた。
「カァッ!!」
「・・・!」
それは黒い塊・・・つまり鴉の右羽を貫き、地上へと引きずり込んだ。
その様子を見て、投げられたものがクナイだと凛が判断するのにさほど時間はかからなかった。
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