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ある日縁側にて
(1/3)

「では、私はこれにて。・・・医師としての忠告ですが、あまり無茶なされませぬよう、お気をつけくださいませ」


一つ頭を下げると、診察道具一式を抱えた医師が部屋を出て行く。
その姿が視界から消え、さらに足音が聞こえなくなるまで凛はじっと耳を澄ます。
そして足音が聞こえなくなった瞬間、ガバリとその場に立ち上がった。


「よし、ふっかぁぁぁつぁ!?」

「危ないっ!」


勢い良く立ち上がったはずが、体勢を崩し倒れこむ凛を傍に控えていた桜が慌てて受け止める。
少し不満げな表情で腕の中に納まった凛を見て、桜は呆れたように息を吐いた。


「・・・動き回れる嬉しさは良く判りますが、足の筋力が衰えているということを御自覚なさいませ」

「はい・・・今、自覚しました」


医師から言わせれば「驚きの速さ」らしいが、凛からすれば「気が滅入る様な長さ」の時を経て、今日ようやく凛の足から包帯が外された。
勿論、診察した医師が思わず目を背けてしまった火傷跡は1つも残っていない。
本当に足の裏に火傷を負ったのか、と疑ってしまうほどだ。


「凛様、少しずつ訓練いたしましょう?」


桜の提案に凛は黙って首を縦に振った。


























「凛殿!某と団子を・・・・凛殿?」


皿に山盛りの団子を乗せて凛の部屋までやってきた幸村は、珍しく襖が全開な事に首をかしげ中を覗いてさらに首を傾げる事になった。


「あら幸村様。ふふふ、申し訳ありません。凛様は今少々お疲れでして」


ぐったりと畳の上に倒れこんでいる凛の代わりに、桜が状況を説明する。


「・・・成程、凛殿は鍛錬をなさっていたのでござるか!」

「鍛錬・・・、そんな感じよね」


とりあえず上体だけ起こした凛は乾いた笑みを顔に貼り付ける。
鍛錬と幸村が言うが、実際は桜に手を引いてもらいながら部屋を何週か歩いた。・・・それだけしかしていない。
しかし長い間動いていない凛の身体はすぐに限界を迎え、今こうやって立つ事もままならないでいる。


(・・・あぁ、冗談じゃない)


桜が幸村に説明してる間も、凛は何度か立ち上がろうと試みていた。
ところが足に幾ら力を入れても、筋肉は動かず腰をあげることさえ出来なかった。


「凛殿、疲れたときは甘味が一番でござる。団子など如何だろうか?」

「貰う。むしろ幸村は団子食べに来たんでしょ?」

「・・・むむむ、凛殿はお見通しでござるか・・・」

(いや、最初に「某と団子を」って言ってたから)


まだまだ精進が足りぬ!と言いながらも既に両手に団子状態の幸村。
その様子に苦笑いをしながら凛は体を起こしてもらい、桜にお茶を頼み自身も団子へ手を伸ばした。
いつもながらこの団子は美味い。甘さを押し出し過ぎない餡と柔らかい団子の生地が絶妙の美味さを生み出している。
聞けば幸村が城下で一番、贔屓にしている甘味処のものだと言う。


「・・・人間っていいわね、こんな美味しいものが毎日食べれるなんて」

「何を仰る?凛殿は人間でござろう?」

「人間、ねぇ・・・この“容れ物”はね。中身の“土地神”は本来実体を持たないのよ」

「ぬ、実体を持たぬと言うならば今、何故凛殿は人の姿をしておられる?」

「・・・幸村・・・。信玄から何も聞いてない?」


馬鹿なのか、無知なのか、天然なのか。
あまりに無神経な幸村の問いに、凛は怒るよりも呆れ果て逆に質問で返した。
質問で返されたことで、幸村は頭を抱えるがすぐに何かを思い出したように顔を上げる。
そして慌ててその場に頭を下げたのだった。


「申し訳ございませぬ、凛殿!某・・・なんと不躾な問いを・・・!!」

「あぁ、思い出した?思い出したならそれで良いわ」


大丈夫だから、と凛は幸村を気にする事無く団子を口にする。
いきなり叫びだされても困るから、団子を先に食えと釘を刺すことも忘れずに。


 


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