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素直じゃない
(1/5)


「医者が言うには大人しくしておけ、と」


まだ暫くは歩き回れそうにないです。と幸村の目を真直ぐに見つめながら、凛は微笑む。
もう既に凛の視力は完全に戻っていた。
同時に自分の置かれた現状を認識して、少しばかり慌てたがそれはそれだ。


「左様でござるか・・・」

「何かあるのですか?」

「あ、いや。特には。それより凛殿」

「はい?」

「まだ・・・その、いつまでそのような話し方を?」

「いけませんか?」


小首を傾げる凛に幸村は顔を真っ赤にして、一瞬何か言いたげに口を開く。
しかし直ぐに俯き、誤魔化すように袴を握り締めた。


「せ、先日も申したように・・・某は、凛殿に畏まれる立場にはありませぬ故!」

「ですが・・・」

「姫さん、そろそろ折れてやってくんない?旦那も色々頑張ってるんだぜ?」


中々首を縦に振らない凛に、柱に凭れ掛かっていた佐助が口を挟む。
しかし凛はほんの一瞬たりとも佐助に視線を向けない。
いや向ける気もないのだろう、少し考える仕草をした後、ポンと片手を俯く幸村の頭に乗せた。


「・・・仕方ないわね。気をつけま・・・気をつけるわ」

「なんと!真でござるか!」

「嘘も真も、神様は嘘つかないの」

「おぉぉぉぉぉ!!やりましたぞ、お館様ぁぁぁぁぁ!!!」

「え、ちょっと!何でそこで信玄が出てくるの!?」


慌てる凛を放置して、慌しく幸村は席を離れた。
しばらくすれば遠くで殴り愛の声が聞こえるのだろう。
そう考えればこの環境にも慣れてきたのかもしれない。


「あーぁ、旦那ってば行っちゃった」

「・・・」

「姫さん、そんなに睨まないでくれる?」


俺様こわ〜い。なんて佐助がおどけた様子を見せれば、凛はついと視線を逸らした。
そんな様子に佐助は肩をすくめると、羽だけを残し一瞬にして姿を消した。
1人ポツンと縁側に座る凛に、桜がそっとお茶のおかわりを注ぎながら1つ尋ねた。


「凛様?何故、佐助様には冷たいのですか?」

「・・・あの忍。第一印象最低だったんですよ。私の事押し倒して・・・!」


思い出して嫌な気分になったのか、凛はおもむろに団子の串を取り、庭先に向かって投げつける。
空気を切り真直ぐに飛んでいった串は塀にぶつかり、はじかれてポトリとその場に落ちた。
速さといい、軌道といい、コレが本物の刃物ならば人を殺めていたかもしれない。
それ程に凛の投げた串には威力があった。


「佐助様は幸村様を、ひいてはお館様をお守りする任がございますゆえ・・・ご無礼、お許し下さい」

「判ってますよ、判ってるんですけどね」


頭を下げた桜の横で凛はお茶を啜る。
お茶特有の渋さが口の中に広まり、僅かに凛は眉根を顰めた。
そして一つ息を吐くと、ポツリと


「独り言、聞いてくれます?」


そう呟いたのだった。


 


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