目を覚ました場所は
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「・・・ん」
ゴロリと寝返りを打ち、布団の中でもそもそと小さな固まりが動く。
「・・・ん?」
先ほどとは微妙に違う声と共に、布団の中から少女が顔を出した。
辺りとぐるりと見渡し首を傾げた後、何度か目を擦り、ただ一言。
「ここ、どこ?」
そう呟いたのだった。
「・・・見えない」
些か不機嫌そうに少女は目を擦る。
それに誰かいれば、止めろと言うかもしれないが生憎傍には誰もいない。
ゴシゴシと瞼が削れるまで続けるんじゃないかと思われた少女の行為は、近づいてきた足音で簡単に終わりを迎えた。
「失礼致します。・・・まぁ、お目覚めになられたのですか?」
高めの声は恐らく女のもの。
耳に覚えのない声に、少女は僅かに警戒の色を示した。
「5日も眠っておられました。何かお口に入れられますか?」
傍で何か物音を立てながら問いかける女に少女は敢えて、問いに問いで返した。
「ここはどこですか?」
「ここはお館様のお屋敷・・・躑躅ヶ崎館でございます」
「・・・!」
躑躅ヶ崎館、そこに誰が住んでいるのか少女は良く知っている。
だから光を捉えない目を目一杯見開き、この場から立ち去ろうとした。
・・・はずだった。
「危ないっ!」
立ち上がったはずが、足に力が入らず、少女はその場に倒れそうになる。
それを女が慌てて抱きとめ、少女を布団の中に横たえさせた。
「無茶をなさらないで下さい。足に大怪我をなさっているのをお忘れですか?」
咎めるような女の口調に少女は、そんな怪我をしていたのか、と他人事のように考えた。
と言うのも目が全く見えていない以外、少女は特に身体の違和感を覚えていないからだった。
「お目覚めになられたことをお伝えしてまいります。
・・・くれぐれも大人しくお願いいたしますね」
暗に逃げ出さないようにと釘をさし、女は部屋を出たようだった。
自分自身しかいなくなった部屋で少女は身体を起こし、ぐるりと周りを見渡す。
とは言え相変わらず見える世界に光はなく、何も判りはしなかったのだが。
せめてもと怪我をしているらしい足に触れれば、なるほど何か布が巻いてあった。
「えーっと・・・」
ガリガリと頭をかきながら、少女は天井を見る。
そして一言。
「誰かいます?・・・って誰もいないなら恥かしいな、これは」
天井に向かって、そう言葉を投げかけた。
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