始まりの雨
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―・・・大将、説明をして欲しいんだけど


帰り道、馬に跨る信玄の横を駆け抜けながら、佐助が言った。


―ふむ・・・幸村には昔、話したかのぉ・・・


―某に、ですか?


突然名を出され、後ろについていた幸村は困惑した様子で首を傾げた。


―昔の、ワシがまだ若かった頃の話じゃ


どこか遠くを眺めながら、信玄はポツリポツリと話し始めた。



―戦で大敗したことがあってな。影武者を身代わりにして逃げていたんじゃ。

 その道中で影武者は討ち取られ、ついにはワシも力尽きてココまでかと思ったんだがのぉ。

 丁度そのときに、この子に助けられたんじゃ。


―ちょっと待って大将、それ何年・・・いや何十年前?

 少なくとも俺様が真田の旦那についてからは負け戦なんか無いでしょ?


―落ち着け佐助。お館様のそのお話は確か某が生まれる前のことでござる。


―幸村よ、よく覚えておるな。佐助、これはもう20年以上も前の事じゃ


―大将、腕の中のそれに助けられたんだっけ?

 俺様、見間違いじゃなきゃ、それ10歳あるかないじゃない?

 年齢とか・・・噛み合わないと思うんだけど


―佐助よ、それなどと言うでない。だが、よく見ておるな・・・。良いか?疑うでないぞ?

 この子は、甲斐の地に住む土地神じゃ

 この姿も仮初だろうて、昔、本人が普段は形を持たんと言っておったからな


―嘘だろ・・・こんなのが?


―佐助!お館様の命の恩人を「こんなの」とは無礼にも程があるぞ!


―・・・旦那、忍は疑うのが仕事なの


―納得できぬのなら本人に聞けば良い。最も、回復してからかのぉ・・・


―はいはい、わかりましたよっと


今は聞きだせそうに無いと佐助は諦め、信玄の腕の中で眠る土地神さまとやらを眺めた。


(本当だかどうだか。妖だったらどーするのさ)


いくら優秀な真田忍隊隊長でも妖に対抗する術は持っていないのだ。
面倒ごとが増えたと佐助は小さく溜息をついた。


 


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