伝説再来
(4/4)


「…ね、打ち合わせでもしてたの?」

「まさか!そんな事しないよ。と言うかそんな算段組むように見える?」

「…悪いけど、見えない」


目を伏せ、溜息を吐く凛に彼は「でしょー?」と何故か楽しげに答えた。
それが妙に癇に障るが、もう声を荒げるのも馬鹿らしく感じてしまうので、凛は視界から彼を削除して小太郎に向き直った。


「好きにしてとは言われたけど、存外困るわよね。私個人でいうなら“いつでも好きな時に遊びにおいで”なんだけど…。そうも言えないのよねぇ。今、信玄の所にいるから小太郎が来ると良からぬ勘違いが生まれる可能性は高いし」

「……」

「はい?小田原の城主に週1で行ってもいいか持ちかけてみる、ですって?何考えてるの!」

「……」

「あの人なら、話を聞けば承諾してくれるはず。って…そういう問題じゃないの!」

「……」

「違う、嫌とかじゃないの!だから、そのー…あぁ、もう!週1で来るとか言って、来なくなったら私が心配するでしょうが!」

「……!」


凛の本音に小太郎の纏う空気が明るくなる。
しまった!と凛が気が付いた時には既に彼女は小太郎の腕の中にいた。


「…もう。図体でかくなったのに、甘ったれて…。昔は甘えてこなかったのに…」


真っ直ぐな感情表現に腕の中で思わず苦笑いが零れてしまう。
幼かった小太郎は貪欲に知識を吸収していたけれど、甘えてこなかった。
と言うよりは甘える、と言う事を知らなかったように当時の凛の目には映っていた。
だから今の状態は嫌じゃなかった。


(ちゃんと…人の子になってる)


“今までどうしてたかとか聞かない。”
そう言ったのは自分自身が知るのが怖かったから。
人ではない自分が短期間とは言え、今の小太郎の土台を作り上げたといっても嘘じゃないから。
それが吉と出ているか、凶と出ているか、結果を突き付けられたくなかった。
でも少なくとも、凶には傾いていなかった。と実感した。


「週1の件は小田原の城主に話す前に、信玄に話しなさい。いくら小田原で許可が出ても、信玄が拒否したら意味ないでしょう?」


腕の中から解放してもらい、兜越しに小太郎の頭を宥めるように叩く。
最初納得していない素振りだった小太郎だが「強行突破してきたら追い返すからね」と凛に釘を刺され、渋々承諾の意思を見せた。


「さーてと、話はまとまったし。信玄の所に行こうかしら。…アンタは?どうするの?」

「んー、俺?」


ぐいっと背を伸ばす凛の視線の先には柱に凭れ掛かる部下の姿。
彼はぐるりと部屋を見渡すと、隠すことなく欠伸をしながら呟いた。


「いいよ、俺は。そろそろ戻るから。軍神苦手だし、軍神命っぽい金髪と迷彩面倒だし」

「…アンタ、本当に人の子に興味ないわね」

「…ま、ね。俺はお嬢が元気ならそれでいいし。後は信玄公と…一応赤毛の坊主と」

「へぇ…」


小太郎が彼の中で興味ある分類にあったのが意外なのか、凛は感嘆の息を吐いた。
そして短く別れを告げると、小太郎を引き連れて部屋を出て行く。
その小太郎は何か言いたげに口をハクハクを動かすが、彼は笑顔で手を横に振ってそれを遮った。


「…て言うかさー。あんまり見せつけられると目のやりどころに困るんだよね。お嬢も坊主もそういう意図がないのはよーーーーーく判るんだけどさ」


乱雑に前髪を掻き上げて、溜めこんでいた物と一緒に息を吐く。
そのまま風を纏わせて、彼の姿は消えていく。





その後、時を置かずして別室ではあっさりと、「凛目的の風魔の訪問」が許可され、凛が素っ頓狂な声を上げていた。










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基本的に彼女の部下は人を名前で呼ばない。


 


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