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伝説再来
(3/4)

「・・・感動の再会を邪魔して悪いんだけどさ。お嬢も坊主もさー・・・さっさと信玄公の下に戻った方がいいと思うんだよねー」


一応居心地の悪さを感じてはいるのか、少し乱暴に束ねた髪を掻きあげながら彼が呟く。
その言葉にそういえば、と凛は思い出す。


「・・・そう、ね。戻った方が絶対良いわよね」

(・・・戻る?)

「戻って、事情説明して。でも、えーっと・・・」


その瞬間の記憶はないが、間違いなく凛は小太郎に攫われた、という形でみんなの目には写っているはず。
となれば2人でノコノコと一緒に戻る訳には行かない。かと言って別々に行けば内通していたのかと凛は疑われるだろうし、小太郎は間違いなく総攻撃に遭う可能性が高い。


(まぁ・・・返り討ちにしそうよね・・・)


チラリと小太郎を見れば彼は?と首を傾げる。
一々動作が可愛いけれど、伝説の忍として名が通るぐらいなのだから実力は相当の物なのに間違いない。


(・・・困った・・・)


良い案が思いつかない。
そして戻る時間が遅くなればなるほど、戻り辛くなっていく。
これならまだ向こうから来てくれるほうが楽だけどなぁ、なんて考えすら浮かんでしまったそんな時。


「も、面倒だしさ。まとめて向こうに戻ろうよ。そうしよう」

「は?」


何を言い出すの!と口を開く前に米俵宜しく彼に担がれ、小太郎も有無を言わさず彼に腕をつかまれていて。
次の瞬間、視界は森ではなく、つい先刻までいた屋敷の庭になっていた。


「はい、とーちゃーく。はい信玄公、お嬢返しますよ。無傷なのでご安心を」

「ちょ、こら、投げ・・・うぶっ!」

「凛!大事無いか?!」

「風魔!!」

「で、そこの迷彩は吼えないで。話す空気じゃなくなっちゃうから。それから金髪お姉さんは天井裏からこっち狙わないでね。どーせ俺もお嬢も人の攻撃如きじゃ死なないけど夢見も目覚めも悪くなるじゃん?」

「くっ・・・」


まさにお荷物状態で放り投げられた凛は綺麗な弧を描き、信玄の腕の中にすっぽり納まる。
それと当時に抱き締められて、潰れたカエルの様な声が出たがそれは誰にも咎められないだろう。
そして瞬時に状況を見極めた彼は忍2人に制圧をかけると、ゆっくりと視線を屋敷の影に向けた。


「それから軍神殿。何故その位置に?まさか俺がココから現れると判っていたから?」

「ふふふ。びしゃもんてんのかごですよ」

「・・・教える気は無いってね」


肩をすくめる彼の先、屋敷の廊下の曲がり角からゆっくりと姿を現す謙信。
刀に手をかけていたあたり、いつでも抜刀できるように構えていたらしい。


「まぁいいや。結論から言えば、お嬢と坊主は昔馴染みでした。はい、お終い!」

「は?何その説明!」

「何って言われてもさぁ。じゃぁ何なの?迷彩は1から10まで話聞きたいわけ?」


面倒くさいと態度で示され、佐助は露骨に嫌悪感を顔に浮かべる。
信玄の腕の中から様子を見ていた凛は気が気でない、と双方の様子を見比べてその眉間に皺を刻み込む。
いったい何を言えば効率よく場を抑えられるか、と思考をめぐらす間に視界の隅を金色が横ぎった。


「おい。何故風魔は今姿を見せたんだ?」

「あぁ、それ?…坊主、言ってもいいの?」

「…、…」

「あ、そ。前回お嬢を見かけて気になったらしいよ。で、ちょっと覗きに来たらお嬢部屋の隅に押しやられてるし、何かあったんじゃないかと慌てて部屋から連れ出したんだってさー」


かすがの問いかけの返答はその場にいた誰もが予想しなかったもので、何とも言えない空気が漂う。
その原因の小太郎はと言えば、これまた居心地が悪いのか腕を組んだままで顔をそっぽ向けるようにして無を貫いた。
凛はと言えばこちらも複雑そうな表情のままで固まっていた。


「ではさきのおこないは、おだわらとはむかんけいなのですね?」


微妙な空気を払拭するような謙信の声。それに答えるように小太郎は首を僅かながら縦に振った。
小太郎の意思表示に今度は信玄が「ふむ」と小さく声を上げた。


「ならば良い。北条とは同盟を結んでおる手前、今回の事は水に流すかの。…凛」

「っはぁぁい?!」


まさか呼ばれると思っていなかった凛の口からは裏返った声が出てしまう。
腕の中で慌てる凛に信玄はゆるりと口角を上げると、腰を上げその存在を解放した。


「積もる話もあるじゃろう。好きにするがよい」

「え、え?」

「さて儂らは行くとするか」


まるで話し合いでもしていたかのように信玄、謙信、かすが、佐助と部屋を出ていく。
忍び二人組は納得していないようだが、下手に手を出しても返り討ちされるのが判っているからか渋々といった様子で部屋を後にした。
そして残されたのは、凛と小太郎と彼だけになる。

 


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