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伝説の回想
(3/5)

「小太郎は理解が早いわね。面白いぐらい」


ポイと小枝を投げ捨て、彼女が地面に寝そべる。
己と彼女の周りには様々な文字が書き連ねられていた。

学があれば、口が利けずとも出来ることは広がる。

彼女の言葉で始めた勉学。
勉学、何てものを己がする日が来たことに驚きだったが、何より他人に教えることが出来るだけの学がある彼女に改めて驚いた。


その反面、次第に彼女の正体がわからなくて少しづつ恐ろしさを抱くのも事実。
彼女は読み書き計算の他に人の世の事も教えてくれた。
日ノ本には沢山の武将がいて、その武将が自身の国を治め政を行なっている。その政の下に生活をしているのが商人や農民と言う類。物が欲しい時は其れと同じだけの対価を払う。其れが金銭なのか物々交換なのかは時次第。
他にも数え上げれば切が無いほどの情報、其れは全て世から離されて生きてきた己は全く知らないことばかり。
それが恐怖感に拍車をかけていった。

いずれ己はどこかに売り飛ばされるのではないだろうか。
学をつければ人の世で出来ることが広まるといった彼女。
人を売った金でまた己のような餓鬼を育て、また売って金を手に入れ・・・。
そうやって金の工面を行なっているのではないだろうか。
だとしたら彼女自身に学があるのも、身なりが良いのも頷ける。

知識を手に入れたと同時に、思考が働きすぎてよからぬ事を考えてしまう。
とは言え彼女は間違いなく己の命の恩人。殺してしまうと言う事は出来ない。
ならば己が出来ることは彼女の元からの逃亡。
その為には生きる術を身に付けないといけない。


―“ここからはなれたあとでも、生きていけるすべがほしい”


小枝で地面を引っかき彼女に伝える。
彼女の目論見に気がつかない、ただ自身の成長を望む無知な餓鬼を装ったまま。


「生きる術、ねぇ・・・。そーねぇ、食料の見分け方は知ってるだろうし、かといって火の起こし方・・・は火打石無いし・・・。あ、方角の判断方法とか?」


うんうんと唸った後、彼女は2,3の知識を教えてくれた。
学とは違い、若干渋った様子にやはり己を売るために逃亡に役立つことは教えてくれないのか、と勘繰ってしまう。
それでも無知を装い、知識を吸収する。
やがて“いずれ体を使うときのため”と名義立てて、己はあの広い森の中を食料探しを兼ねて半日中動き回り始める。

そんな俺を彼女は優しい眼差しで眺めていたのを覚えている。

そして俺はある日、彼女が姿を消した瞬間を見計らい、今まで世話になった場に別れを告げた。




―“おせわになりました”




死を覚悟した時と同じ様な真っ青な空の下。
流石に何も言わずに出て行く事はいくら売られる身とは言え、憚れたので礼を一言地面に書いた。
今まで隠れていた追っ手がくるかと思ったが、追っ手も今まで遊び相手になってくれた動物たちも姿を見せない。
若干不審に思いながらも、今まで踏み込めなかった先の森へ一歩踏み出した瞬間、首根っこをつかまれた。


「・・・おい、赤毛の坊主」

「・・・!!」


数回だが聞いたことのある声。
間違いなく、彼女を「お嬢」と呼んでいた声だった。

そして悟る。
彼がいるから追っ手が来なかったのか。
むしろ己が逃亡を企てていたことなど、お見通しだったのかと。


 


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