越後からの来客と乱入者
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「・・・ところでさぁ。姫さんが其れに名前付けてないのは判ったんだけど、結局其れは何なの?」
不意に佐助の声が割り込む。
声のした方を振り向けば、いつの間にか場所を庭から信玄の影に移していた。
「・・・さぁ、私も詳しくは・・・」
「え、正体知らないで近くにおいてるの!?」
「なっ、人の子じゃないのは判ってるし。それで十分でしょ!?」
「・・・それで十分なのか?普通は素性の判らないものは傍に置かないぞ」
「ぐ・・・なんで責められてるの私・・・」
驚く佐助に、追い討ちをかけるようなかすがの発言。
当然凛は腑に落ちない、彼女の基準は己の守る地に有害か無害かだけだから。
そんな凛が哀れになったのか、漸く彼が口を開いた。
「あーっとね、俺一応お嬢の代理みたいな感じ。あ、だからって土地神じゃないから。まぁお嬢不在の時とかに頑張るのが役目」
「それはさっきアンタが言ってたじゃない。でもその代理って他の土地神にもいるの?」
「さぁ?俺もお嬢も他の所のと会う事は滅多に無いし」
「ふぅん・・・」
納得いかないと如実に目で訴える佐助だが、佐助以上に笑って誤魔化す彼に追求は無駄だと判断したのか、佐助はそれ以上の問いかけをやめた。
「ま、俺は帰りますよー。お嬢も遠出が出来るなら一度戻ってきなよ。村人が心配してる。足場悪い中、祠まできて手を合わして帰っていくんだよ」
「・・・そう。わかった、ありがとう」
「ん。じゃね。人の子達はあまりこっちの事に首突っ込まないようにしなよ俺やお嬢は寛大だけど、他所は判らないからね」
ポンポンと凛の頭を撫で、2,3歩歩くと自然な流れで彼は姿を消した。
後ろで感嘆の混じった声が聞こえたが、凛の脳裏には別の光景が過ぎっていた。
「ねぇ。1つ聞きたいんだけど」
振り返った先、8つの瞳が何をと問いかける。
それを肯定と受け取った凛はそのまま疑問を投げかけた。
「私が森の中で会った風魔って何者?」
「・・・それを知って、姫さんどうするの?」
「どうするも何も、気になっただけよ。佐助だって私になんでいたか聞いてたじゃない」
「まぁ、ねぇ・・・」
そういえばそうだったと佐助は頬を掻く。
別に隠すことでもないし、問題ないですよね大将?と目で信玄に訴えれば首を縦に振られた。
「風魔っていうのは、小田原の北条が雇ってる傭兵だよ。俺様の薄給じゃ到底足元に及ばない程の給金がいるけど、それに見合っただけの仕事はする。そんでもって口がきけないのか、話さないのは知らないけど異常に無口だね」
「後、生半可な腕の者では太刀打ちできないほど、腕が立つ。それゆえ“伝説の忍”と呼ばれているな。・・・まぁ、元は任務中に姿を見たものは例外なく殺されるから、誰も姿を見たことがない・・と言うことだったんだがな」
「・・・へー・・・?」
じゃぁあれは任務中じゃなかったのだろうか?かすがには応戦していたとは言え、凛に対して殺意だとかそういう悪いものは感じなかった。
「でも風魔って本当、謎が多いよね。俺様ですら、外見と風魔小太郎って名前ぐらいしか知らないし」
「情報を残さないからな、奴は」
「・・・ん?風魔、小太郎・・・?」
小太郎、その名前に凛の忘れていた記憶が1つ浮かび上がる。
赤毛で無口だった少年。
名を聞いて、名は無いと首を振った少年に凛が与えた名前。
ある日突然姿を消したが、もしその時の少年ならあの態度も判る・・・かもしれない。
「その風魔小太郎、私の知っている小太郎・・・かも」
凛の発言にその場に居た誰もが目を大きく見開いた。
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