越後からの来客と乱入者
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さてダンッと踏み込んだのは誰だったか。
その音を合図に3人は外へと飛び出した。
「あーもう、避けないでくれない?!鬱陶しい!」
「いやいや、避けるでしょ普通。自ら当たりに行くのは馬鹿の所行。っと、残念だね」
「くっ!佐助!もう少し気を引いておけ!」
「無茶言うなよ、かすが!コイツ当たらないし仕掛けてこないし、すっげーやりにくいんだけど!ていうか、最初に会った時のアレは何、狐の皮でも被ってたわけ?印象違うんだけど!」
「あー、あれ?当たり前じゃん、頼み事するときゃ弁えるよ、俺だってさ」
手裏剣を自由自在に振り回し、攻撃を仕掛ける佐助に対して彼は全て寸での所で避けていく。
かすがが何度か隙を狙ってクナイを投げるが、それもまるで後ろに目が付いているかのようにアッサリと避けられる。
何度攻撃を仕掛けても、崩れることの無い余裕の表情。忍2人の間に生まれるのは焦りの感情。
そしてその2人を煽るように彼は笑みを一層深くした。
「忍のお二人さんは術とか使わないの?」
「アンタ相手に使うかよ、大体こんな狭い範囲で術使ったら屋敷壊れるっての!誰が直すと思ってんの!俺様だよ、俺様!給料雀の涙の癖に、任務多いわ、雑用多いわ、本当勘弁してよね!」
「・・・佐助・・・お前・・・」
「・・・兄さんも大変なんだねぇ・・・。おぉっと」
「情けはいらないから当たって欲しいんだけどね、俺様としては!」
いつの間にか手裏剣からかすがと同じくクナイに持ち替えた佐助がヤケクソ交じりに叫ぶ。
その目尻に光るものが見えた気がして、今まで傍観に徹していた凛は顔を上げた。
「・・・信玄。佐助の給金いくらよ」
「・・・さてのぉ・・・。佐助の給金は幸村に任しておる」
「任せてるって・・・それ、絶対本来佐助に回るはずの給金、幸村の甘味代に消えてるわよ」
「かいのとら、あまりやすいちんぎんでは、かいのしのびがあわれですよ」
「ぬ・・・」
凛と謙信に責められ、誤魔化すように信玄は自分の髭を撫で付ける。
しかし目の前でちょっとした諍いが起きていても、自ら介入しようとしないのは国主の立場があるのか、懐が底抜けに深いのか、それともただ面倒なだけなのか。
いずれにしても争っているうちの1人が一応自分の配下に居る手前、凛としては目の前の諍いは早く終わって貰いたい事この上ない。
それにいつか人が集まってくるとも限らない、全くの無関係な人間に飛び火してしまえば申し訳が立たないに決まっている。
「信玄、私ちょっとあの馬鹿止めてくる」
「おや、とめてしまうのですか?」
「・・・え、止めちゃダメなんですか?」
「いえ、きになさらず」
「あ、じゃ遠慮なく」
一瞬引きとめられたが、凛は立ち上がりスタスタと歩き始める。
新たな乱入者が近づいても、誰も気が付かない。悪い意味で熱中しすぎていると近づくたびに実感する。
突き刺さる無数のクナイ、荒らされた庭、抉れた土。
耳を澄ませば凛には「早く止めさせて」「怖いよ」と懇願の声が聞こえる。
「・・・あー、もー・・・本当に世話のかかる・・・」
十分視界には入っている筈なのに、今だ誰も気が付かない事実に苦笑しか浮かばない。
パリパリと微量の電気を纏わせた右手を上げて、凛は小さく溜息を吐いた。
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