越後からの来客と乱入者
(2/5)
「軍神よ、待たせたの」
信玄自らが凛の手を引き、案内をした場所。
凛の視線の先には1人の人物が静かに座っていた。
その人物の真正面に凛は腰を下ろし、信玄は2人の丁度真ん中に位置する上座に腰を下ろした。
「はじめておめにかかります。えちごのこくしゅ、うえすぎけんしんともうします。あなたさまがかいのまもりがみですか?」
「あ、はい・・・」
男女の判断しにくいし、言ってる内容が聞き取り辛いなぁ。
それが凛の上杉謙信に対する第一印象だった。
ただ悪い印象は抱かない。纏う空気が澄みきっているのだ、恐ろしいほどに。
「なをうかがってもよろしいですか?」
「今は凛と申します」
「よいなですね。さて・・・せんじつはわたくしのぶかがぶれいをはたらき、もうしわけありません。このばをかりて、おわびもうしあげます」
とても自然な流れで頭を下げようとする謙信。
凛は黙って受け入れようとするが、それを妨げるように天井から一つ影が降りてきた。
「謙信様!謙信様が頭を下げる必要など・・・!全てはこのかすがの独断で行った事!」
「しずかになさい、つるぎよ。ぶかのしったいはうえにたつもののしったい。ならばわたくしがあやまるのがどうりというものです」
「ですが・・・」
どこかで見た、と言うよりも一度見ると忘れられそうにない金色の髪に目のやり場に困る忍装束。
そういえば名前はかすがとか言ったっけなぁ・・・なんて凛が記憶を辿っていると、そのかすがの鋭い視線とバッチリあってしまった。
「・・・なにか?」
若干声のトーンを下げて聞けば、かすがの視線が一瞬宙を泳ぐ。
その後さっきの昂揚とは一転、口を開けば出てきたのは随分としおらしい声だった。。
「・・・先日はすまなかった。謙信様のためと思ってしたが、結局は風魔に出会い、お前を置き去りにしてしまった。しかも・・・越後に帰った翌日、よく訳の判らない者が来るし・・・。お前なら知っているだろう、アレは一体なんだ?」
「・・・アレ?」
「あぁ、お前の事を“お嬢”と呼んで、お嬢は甲斐から出られないんだから誘拐とか何か馬鹿な事してるのさ、だの散々貶したあと忍の様に消えて行ったぞ。・・・くっ、思い出しても腹が立つな、アイツは!!」
「わたくしにはとくになにもいってはきませんでしたが・・・ずいぶんけはいのうすいものでしたね。というよりはいきているというきがしない。・・・なにものでしょうか」
「・・・、・・・」
かすがと謙信の言葉に凛の顔が思わず引きつる。
なんせ心当たりが十分すぎるほどある、むしろ彼は1人勝手に何をしているのだろうか。
「えっと、あの子は・・・その、まぁ私の「部下とか、補佐とか」そう、そんな感じで・・・え?」
「久しぶり、お嬢」
凛が振り向いた先、にっこりと笑うのは今まさに話題に居た彼そのもの。
昔から一張羅だと言い張っている水色の着流しに身を包み、若干伸びた襟足の髪の毛を片方にまとめ肩から垂らしていた。
「・・・なんで居るの」
「んー、話題に上がった気がして・・・おっと。危なっ!」
彼が居た場所に1本のクナイが刺さる。
慌てて腰を上げる前に凛は目の前に立ちはだかった迷彩に後ろに投げ飛ばされた。
「ぎゃんっ!」
「大丈夫か、凛よ」
「ゴメンね、姫さん!それより・・・アンタ、どっから入ってきた?」
「ちょっと迷彩!お嬢投げ飛ばさないでくれない?!言っとくけど、俺に人相手の警備なんざ無意味だかんね」
「馬鹿!何でそういう挑発するようなことを・・・!!」
謝りなさい!と言うよりも先にまた新たな乱入者が増える。
凛の目の前を横切ったのは金色。
だが乱入者が増えても、彼は笑みを崩さない。
「貴様・・・!!前はよくも散々貶していったな・・・!」
「あれ、誰かと思えばこの間の誘拐考えた馬鹿な忍かー。何、今日はどんな御用で?」
「黙れ!その口塞いでやる・・・!佐助、少し手を貸せ!」
「言われなくても!利害は一致してるしね!」
クナイを構えるかすが。
どこからか手裏剣を取り出した佐助。
そして丸腰のまま笑みをたたえた彼。
まさに一触即発の空気がそこに出来上がっていた。
← →
![](//img.mobilerz.net/sozai/264_w.gif)
《目次へ》