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お披露目
(2/3)

「あらー・・・この雰囲気は変わらないのね」


案内された座敷をぐるりと見渡し、凛は一人口許を緩める。
変わってたのは盛り上がっている面々だが、それは仕方が無いことだろう。
人間は弱くて、脆くて短命で。それでいて強がる生物だから。


「おぉ、凛!ようやく来たか」

「ごめんなさい、信玄。待たせてしまって」


座敷の一番奥、つまり上座で酒を煽っていた信玄が凛に気付き、声をかける。
それに凛が返事をすれば、ざわめき立つ場の空気。
当然と言えば当然だろう、年端も行かぬ少女が信玄に対し、尊厳の欠片も無い言葉使いなのだから。


「うむ。静まれぃ!紹介しよう、この者はワシの命の恩人、甲斐の土地神じゃ。昔からワシに仕えてくれている者は覚えておろう?あの彼女じゃ。此度は先日の山火事から近隣の村を守ってくれた件で、その身を預かっておる。今は凛と言う名だ。・・・凛よ、一つ挨拶をしてやってはくれぬか?」

「えっと・・・。初めての方も、2度目の方もおりますが紹介に預かりました、凛と申します。どうぞよしなに」


懐かしさと好奇の混ざった視線を受けながら、凛はゆっくりと頭を下げた。
直後に湧き上がるのは、割れんばかりの拍手と歓声。
そんな中凛は立ち上がると、何の迷いもなく真直ぐ進み信玄の横の空席に腰を下ろした。


「あれで良かったの?」


少し不安を抱きながら問いかければ、信玄は酒を片手に凛の頭をゆっくりと撫でる。
それが是だと理解した凛はうっすらと笑みを浮かべた。


「さて皆の者!今宵は歓迎の宴じゃ!盛大に盛り上がるが良い!」


合図によって、再び活気を持ち始める場に凛は酒瓶を片手にその場を離れる。
向かった先は所謂「重鎮」と呼ばれる者が固まっている席だった。


「お久しぶりです、皆さん」

「おぉ、これは土地神殿!某、生きている間に再び貴女様に会い見える事が出来るとは思っておりませんでした」

「何を言うか、それは皆そうであろう!」

「それもそうであったな!して土地神殿、山火事から村を守ったと言うのは・・・」

「あぁー・・・実はちょっと下手を打って。力使い果たしちゃったんですよー・・・」

「なんと・・・。もしや、以前よりお姿が幼いのは・・・」

「あら察しが良い。そうなのよ、人の姿は力の残量で決まっちゃうから」

「成程・・・。すると我らは2度土地神様に救って頂いたのか。1度目はお館様自身の御命、2度目は甲斐の民を」

「うーん・・・そうなるのかな・・・?」


重鎮達に酌をしながら、凛は困ったように口許を隠した。
所々から感じる訝しげな視線を払拭するべく、重鎮達と仲の良い空気を見せ付けるつもりだったが・・・。
逆に重鎮の彼らになんだか気負わせてしまったようだった。


「ま、まぁ今度もいつまでお世話になるか判らないけど、見かけたら声でもかけてくださいね」

「は!我らもまた土地神様とお話しとうございます!」

「そんな事言って煽てても、何も出やしないわよ?あ、酒瓶空っぽ・・・じゃあ、また」


重鎮達に一礼すると、空になった酒瓶を携え凛は自分の席に戻る。
その戻った先ではなにやら少し不機嫌そうな信玄が一人酒を嗜んでいた。


「・・・なぁに?拗ねてるの?」

「・・・」

「もー・・・。仕方ないでしょ、少し疑いの視線があったんだもの、本当に昔からの知り合いなのよー。って見せ付けないと駄目だったのよ」

「・・・判っておる」

「そう?じゃぁ、拗ねないでよ。そんなんじゃお酌しても、酒が不味くなるわ」

「うむ・・・」

「変わらないわねぇ・・・。昔も私が皆に挨拶しに行ったら不貞腐れてなかった?」

「む、それは」

「違うって?違わないわよぉ?こー眉間に皺寄せてちびちびと酒啜って、背後からは不穏な空気タダ漏れだった」


酒が入ったわけでもないのに、上機嫌にカラカラと笑いながら昔の己を演じてみせる凛に信玄は罰が悪そうに顔を背ける。
そんな2人の様子を重鎮達は「懐かしや」と昔を思い出し、過去を知らぬ者達は驚きに目を見開いていた。


「でもまぁ・・・私の為なんかに、こんな席を設けてくれて・・・嬉しいわ」

「“なんか”と卑下するのは止めぬか。凛はワシの命と甲斐の恩人じゃ。それに再会を喜ぶことの何が悪い?」

「・・・そーね。再会を喜ぶ事は良い事よ。どう?一杯。お酌するわよ?」

「うむ、頂こうかの」


凛が徳利を傾ければ、信玄も1つ頷いて手にしていたお猪口を差し出した。



 


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