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誘拐未遂事件
(3/4)


「凛様!ご無事で何よりです・・・!!」

「桜さ、くるしっ・・・!」

「桜!姫さん死ぬから!」


帰ってきた凛を待っていたのは、桜からの熱い抱擁だった。
普段落ち着いている様子から想像できないほど、その力は強く、佐助が止めなければ凛は少し危なかった・・・かもしれない。


「も、申し訳ありません。つい取り乱してしまい・・・」

「いえ、心配してくれた気持ちは嬉しいですよ・・・苦しかったけど」

「・・・姫さんって結構思ったことを口か態度に出すよね」

「何、佐助?」

「いーえ?」


おどけた様に佐助が肩をすくめれば、凛は一瞬だが眉間に皺を寄せた。


「・・・あ、そう言えば。これって当然、信玄の耳にも入ってるのよね?」

「え、当たり前じゃない。姫さん、客人なんだよ?」


佐助が肯定すれば、凛は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
宴の報告のときもそうだったが、何故か凛は信玄を避けたがる。
逆に信玄は昔助けてもらった恩人を構いたがる、この差は何なのだろうか。
少し問いただしたいが、今は信玄の下に凛を連れて行くのが先と判断した佐助は、ひょいっと凛を抱き上げた。


「ちょっと?!」

「はいはい、大将の所に行くからね。桜、悪いけどソイツの手当てお願い」

「御・・・畏まりましたわ」


佐助は空いた手で鴉を指差すと、凛を抱えたまま颯爽と部屋を後にした。
目的地に向かうまで、凛は落ち着きが無さそうに首から下げている水晶を弄っていた。


「姫さん、それ気になってたんだけど・・・何?」

「これ?」

「そう、それ」

「あぁ・・・。私の限界を知らせてくれるもの」


いつもより僅かに低い声で、凛は短く言い捨てる。
それ以上の追求を拒むような言い方に、佐助はどうしようかと迷う。
しかし真相を尋ねた所で、教えてくれる可能性は恐らく皆無。
そう判断して佐助は頭を振った後、足を止めた。


「ありゃ、手間が省けちゃった?」

「え?!」


慌てて凛が顔を上げるよりも早く、少し浮遊感を感じた後、佐助とはまるで違う腕によって凛は抱きしめられた。


「・・・心配させよって。凛が攫われたと聴いた瞬間、心の臓が止まるかと思うたわ」

「信玄・・・」


凛を抱きしめたのは、今まさに凛と佐助が会いに行こうとしていた信玄その人だった。


 


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