誘拐未遂事件
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「凛様!ご無事で何よりです・・・!!」
「桜さ、くるしっ・・・!」
「桜!姫さん死ぬから!」
帰ってきた凛を待っていたのは、桜からの熱い抱擁だった。
普段落ち着いている様子から想像できないほど、その力は強く、佐助が止めなければ凛は少し危なかった・・・かもしれない。
「も、申し訳ありません。つい取り乱してしまい・・・」
「いえ、心配してくれた気持ちは嬉しいですよ・・・苦しかったけど」
「・・・姫さんって結構思ったことを口か態度に出すよね」
「何、佐助?」
「いーえ?」
おどけた様に佐助が肩をすくめれば、凛は一瞬だが眉間に皺を寄せた。
「・・・あ、そう言えば。これって当然、信玄の耳にも入ってるのよね?」
「え、当たり前じゃない。姫さん、客人なんだよ?」
佐助が肯定すれば、凛は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
宴の報告のときもそうだったが、何故か凛は信玄を避けたがる。
逆に信玄は昔助けてもらった恩人を構いたがる、この差は何なのだろうか。
少し問いただしたいが、今は信玄の下に凛を連れて行くのが先と判断した佐助は、ひょいっと凛を抱き上げた。
「ちょっと?!」
「はいはい、大将の所に行くからね。桜、悪いけどソイツの手当てお願い」
「御・・・畏まりましたわ」
佐助は空いた手で鴉を指差すと、凛を抱えたまま颯爽と部屋を後にした。
目的地に向かうまで、凛は落ち着きが無さそうに首から下げている水晶を弄っていた。
「姫さん、それ気になってたんだけど・・・何?」
「これ?」
「そう、それ」
「あぁ・・・。私の限界を知らせてくれるもの」
いつもより僅かに低い声で、凛は短く言い捨てる。
それ以上の追求を拒むような言い方に、佐助はどうしようかと迷う。
しかし真相を尋ねた所で、教えてくれる可能性は恐らく皆無。
そう判断して佐助は頭を振った後、足を止めた。
「ありゃ、手間が省けちゃった?」
「え?!」
慌てて凛が顔を上げるよりも早く、少し浮遊感を感じた後、佐助とはまるで違う腕によって凛は抱きしめられた。
「・・・心配させよって。凛が攫われたと聴いた瞬間、心の臓が止まるかと思うたわ」
「信玄・・・」
凛を抱きしめたのは、今まさに凛と佐助が会いに行こうとしていた信玄その人だった。
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