誘拐未遂事件
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―さて、この金髪美人をどうしてくれようか。
仲のいい鴉を傷つけられた事で、凛は腸が煮え繰りかえるほど怒りに満ちていた。
周りが心配そうに枝葉を揺らすが、その声は凛に届いていない。
「っ!!何故、お前がこんなところにいる!」
「ぎゃっ」
情けない声が漏れたが仕方ない。
突然、金髪美人の足が止まったのだから。
どうやら誰かに遭遇しているようだが、凛からその姿を見ることは出来ない。
「ちっ・・・!良いか、そこから動くな!」
金髪美人にその場(と言っても木の枝の上)に下ろされる。
見れば、少し離れたところで金髪美人と誰かが戦っているようだった。
「何故だ!何故、風魔、お前がこんなところにいる!」
風魔と呼ばれた者は、金髪美人の問いかけに答える様子を見せない。
ひたすら彼の武器らしい、2本の刀で攻撃を仕掛けていた。
(あ、れ?)
目の前で繰り広げられる戦いを見つめながら、凛は首をかしげる。
あの風魔と呼ばれた者の髪の色に、凛は見覚えがあった。
けれどアレはもう十何年も昔の事、人違い、と言う可能性だってある。
それに目の前の風魔とやらは兜を深く被っているため、顔の造作を見ることも不可能だ。
「く、そ・・・。今は諦めるしかないのか・・・!」
肩口を押さえながら金髪美人は凛に目もくれず、その場から立ち去っていく。
どうやら勝負はついたらしい、が置いていかれた凛はたまった物じゃなかった。
「ちょっと!置き去り?!」
こんな森の中、歩けない凛には(死ぬことは無いが)死ねと言われている様なものだ。
枝から動くことが出来ずにいると、目の前に何かが降り立った。
「あ・・・」
それはさっきまで戦っていた風魔だった。
腕組みをしていた彼はその場にしゃがみこむと、兜越しだが凛の事を上から下まで一瞥し始める。
そして。
「え?」
ポンポンと、凛の頭を撫でると内緒と言わんばかりに人差し指を口元にあてて、すぐにその場から消えた。
「なんだっ「姫さん?!」・・・あ、佐助。と、お前!!よかったぁ・・・」
首をかしげる凛の前に、入れ違いのように佐助が姿を見せる。
その彼の腕の中に、さっきまで自分を追いかけてくれている鴉がいたことに、凛はホッと胸をなでおろした。
胸を撫で下ろしたのも束の間。
帰り道は、尋問の嵐だった。
「で、浚ったのは?」
「・・・金髪の、美人なお姉さん」
「かすがか・・・。何もされてない?」
「うん、全然何もされてない」
流石に担ぐのは失礼だから、と怪我した鴉を抱えている時に横抱きにされた。
抱えられていない分、佐助の顔がよく見え彼が非常に怒っているのが嫌でも良く判った。
(でも、私のせいじゃないんだけどな・・・)
「あと2つ。かすが、何か理由とか喋ってた?」
「あぁ・・・信玄の寵愛を受けてる姫はお前だろうって。だから人質にするんだーって」
「そう。・・・なら、かすがの独断か・・・?軍神はそんな手は使わないだろうし・・・」
ぼやく佐助の言葉から、金髪美人はかすがというらしい。
とりあえず名前を頭の片隅に留めて置くと、いくらか低くなった佐助の声が振ってきた。
「最後、どうして風魔がいたの?」
「風魔・・・。あ、兜の人?知らない。道中で対峙したみたい。言っておくけど、何もされてないわ」
「ふぅん・・・」
あと2つと言った通り、佐助の質問は終わった。
無言に堪えられないというように、凛が腕の中の烏を撫でれば、鴉は小さい声で鳴いた。
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