ある日縁側にて
(3/3)
「・・・凄いものを見ましたわ」
「・・・あの旦那が青ざめるなんてねぇ・・・。姫さん、旦那嫌いなの?」
「まさか!信玄が可愛がる幸村なら、立派になって欲しいだけよ」
随分と温くなったお茶を啜り、凛は言い返すが、桜と佐助の顔色は優れない。
「俺様さぁ・・・団子の串が凶器になるって初めて知ったよ・・・」
「私もです・・・」
「普通、壁にめり込まないよね・・・」
「恐らくは・・・」
ある意味クナイよりも正確に相手の急所を突けるのではないかと、忍組は壁に突き刺さった串を眺め、そう呟いた。
突き刺さって落ちないと言うことは、それだけの強さと勢いで投げられたと言う証。
「じゃぁ佐助も団子の串持ち歩いたら?幸村が団子食べる限りはいくらでも補填できるでしょ?」
「あ、うん・・・。ちょっと考えさせて」
「じゃ、じゃぁ・・・私、お皿を下げてまいりますね」
「あ、俺様は旦那の様子見てこなくっちゃ」
「・・・?」
そそくさと立ち去る2人の背(1人はその場から消えたが)を眺めながら、凛は首をかしげる。
しかしそれも耳に届いた羽音によって、すぐに忘れることとなった。
「カァッ!」
「・・・本当お前は来る頃合が悪いわね。もう少し早く来れば何かあげれるのに。っていつも言ってるでしょ?」
警戒する様子もなく、庭に降り立った一羽の鴉。まだ成長段階なのか、他の鴉に比べるとその身体は少し小さい。
凛の言葉を理解しているのか、いないのか。
鴉は首を少し傾げたと思えば、トコトコと歩いてピョコンと縁側に飛び乗った。
「カァー」
「ごめんね、まだお前の言いたいことが判らない。・・・力不足ね」
おいでと手招きをして、素直に寄って来た鴉の頭を指先で撫でながら、凛はハァと息を吐いた。
祠にいた時、近くに集まる鴉は皆何処か距離を置きたがっていた。
その点、数日前から姿を見せたこの鴉は随分と利口らしく、おまけに人懐っこい。
それだけで凛がこの鴉を気に入るには、十分な理由だった。
「お前みたいに飛べたらねぇ・・・、村の様子とか畑とか見にいけるのに。護るだけ護って、様子も見ないなんて最低よね。良かれと思ってやったけど、それが本当に良かったのかは判らないし。情報として、ここの子たちが色々教えてくれるけど」
「・・・カァ」
「あぁ、ごめん!お前に愚痴っても仕方ないわね。元をたどれば、土地神として私が力不足のせいなんだから」
お前は心配しなくてもいいよ、と頭を撫でれば、鴉は気持ちよさそうに目を細める。
祠周りの鴉もコレぐらい、愛想があればいいのに・・・。なんて凛がボンヤリ考えていると、何かに気付いたのか突如鴉は慌てたように空に飛び出していった。
「あー・・・」
「失礼致します。凛様、先ほど城下より反物屋が注文の品が仕上がったということで、お見えです」
「あ、はい。・・・桜さんは?」
今までに見たことが無い女中だと、落胆する様子を見せながらも凛は警戒をする。
見知らぬ女中は、桜には使いを頼みました、と素っ気無く返事をすると凛に向かって手を差し出した。
「さぁ参りましょう、凛様」
「・・・はい」
差し出された手にゆっくりと自分の手を重ねる。
てっきりまだ自力で歩けない自分への配慮と思いきや、いきなり引き寄せられた挙句、腹に鈍い痛みを感じて視界が暗転した。
「っ・・・?!」
「容易いな、簡単に捕獲できるなんて」
揺らぐ視界の中、最後に凛が見たのは綺麗な金色だった。
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