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ある日縁側にて
(2/3)

「あー、そういえば幸村」

「なんでござろう?」

「ここより美味しい甘味処ってある?甲斐で」

「ぬぅ・・・?」


自分の分の団子を食し終え、お茶を啜りながら凛は問う。
しかし幸村は首をかしげる。どうやら知らないようだ。


「甘味が如何なされた?」

「うーん、毎年ね、祠にお供えが来るの。まぁ、信玄からなのは判ってるんだけど・・・、それが何時頃からか団子に変わってね。またその団子が美味しいのよ、本当に。だからこうやって今、姿があるし食べに行きたいから、何処の甘味か教えてもらおうかな、なんて」

「・・・?それならばお館様に伺えば早いのでは?」

「・・・甘いわね、私も聞いたわ。でも“ハッハッハ!判らないのもまた楽しみだろうて!”・・・って。だから幸村なら知ってるかなと思ったんだけど」

「申し訳ありませぬ。某、お館様が凛殿の祠に供え物をしている事自体が初耳ゆえ・・・力添えできませぬ」


最後の団子を片手にうな垂れる幸村。
信玄が可愛がっている幸村でさえ知らないなら、他に尋ねても無駄なことだろう。
凛はそう判断をして、再びお茶を啜った。


「気にしないで。確かに何処の甘味処の団子か心躍らせるのも楽しいし」

「凛殿は、まこと寛大なお心の持ち主でございますな!」

「・・・寛大、ねぇ・・・」


どーなの?と傍にいる桜に視線で問えば、口元を隠して笑っていた。
・・・その笑いはどういう意味なのか、凛は考える事を諦める。
そしていつもと変わりない天井を見上げた。


「でー。佐助ー、何か用ー?」

「・・・あのね、姫さん。俺様、旦那を護るのもお仕事なの。近くにいるからって呼ばないで欲しいんだけど」

「そう?いきなり天井裏に来たから用事だと思ったんだけど」

「・・・俺様、姫さんが偵察に行った先の客人じゃなくて良かったと思うよ」


天井板を外し、顔を覗かせた佐助は、凛の指摘を受けそのまま音を立てずに降りてきた。


「用件は幸村宛?桜さん宛て?」

「なんで姫さんが主導権握ってるの。用件は大将から、ここに居る全員に。・・・と言っても主に姫さんにかな?」

「私に?」

「なんと!お館様から!?佐助!早く用件を述べよ!」

「はいはい、旦那五月蝿いから。えぇとね、3日後に姫さんを歓迎する宴を開く!ってのが全員に。ここからは姫さん宛て"逃げようと思うでないぞ"だって。・・・何したの?」

「昔、ちょっと・・・ね」


気まずげに口ごもる凛を珍しいと思いながらも、佐助は追求を避ける。
凛の言う昔は、自身が幸村に仕える前の事。聞いたところでどうしようもない。
それに理不尽なことで、また何かを投げつけられるのは勘弁願いたい。
なんせあれは地味に痛かった。例えるなら、足の小指をぶつけたような。


「さ、旦那。八つ時はもう終わり。早く執務に戻ってよ」

「し、しかし俺はこれから鍛錬をせねばならぬ!」

「昨日もそう言ってたよね!鍛錬もいいけど、少しは執務をしてくれないと俺様たちが困るんだけど!」

「・・・主従関係逆転してない?」

「あら?何時もの事でございますよ?凛様」

「へぇ・・・」


興味ない素振りを見せながら、凛は団子の串を一本手に取りクルクルと手の上でまわす。
その間にも真横での言い争いは止まらず、むしろ激化していく。
そして幸村が激昂し立ち上がった瞬間、その目の前を細い何かが通り過ぎて幸村の髪が数本ハラリと散った。


「・・・っ?!」


飛んで行った先には柱に突き刺さる団子の串。
慌てて反対側に視線を向ければ、その外見年齢に不釣合いな優美な笑みを見せる凛が居た。


「幸村?」

「な、何でござろう?!」

「人の上に立つ者としてね、護るべき力を手に入れるための鍛錬は大事。でも、力だけじゃ護れない。力は目に見えるものにしか対抗できない。それは判ってるわよね?」


笑みを崩さぬまま、畳み掛けるように喋る凛に思わず幸村はそろそろを腰を下ろす。
佐助も桜も、凛の変貌に迂闊に声をかけることも出来ずにいた。


「民はね、戦だけに怯えてるわけじゃないのよ。大雨のたびに川が氾濫しないかとか、旅の道中に夜盗が襲ってこないかとか、色々。そういう不安を取り除いてあげるためにするのが政(まつりごと)でしょ?幸村は民の不安を放置しておきたいわけ?」

「そんな事なかろう!某はお館様の治めるこの土地で、誰もが笑っていて欲しいと願っておる!」

「そう、じゃぁ・・・」


スッと凛の手が団子の串へと伸びる。
そして次の瞬間、風を切る音がして幸村の目が見開かれる。
串は彼の横顔ギリギリの距離を通過し、背後の壁に突き刺さっていた。


「・・・執務、するわよね?」

「と、当然・・・!そ、某、これで、し、失礼いたす!!」


否とは言わせぬ凛の声と笑みに、幸村は顔を真っ青にして部屋を飛び出していった。



 


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