迷彩と縮む距離
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「珍しいねぇ、こんなに俺様を呼ぶなんて」
「・・・いいじゃないの、別に。ていうか見下されてるみたいだから、座って」
「はいはい」
床を叩かれ、肩をすくめながら佐助は腰を下ろす。
勿論凛より下座に座ることを忘れない。
「何で下に座るのよ」
「あのねぇ、姫さん自分の立場判ってる?大将の客人だよ、客人より上座に座る忍が何処に居るの」
「上座に座れ、何て一言も言ってないわ。それにコレじゃ私が佐助を見下してるじゃない。座るのは目の前よ、目の前」
そこに座れ、と凛自身の目の前を指差され、思わず佐助の口元が引きつった。
しかし己の立場と凛の立場を考えそして諦め、直ぐにその場を移動した。
「うん、それで良し。足崩していいから、私もそうだし」
「そいつはどーも」
言いながら佐助は投げやり気味に頭を掻いた。
本当なら今すぐにでも、凛の目の前から立ち去りたいのが本音だ。
とは言え相手は上司の客人ゆえ無碍にも出来ない。
それに、佐助自身凛に言いたい事があったからその場から動けないでいた。
「・・・反物、ちゃんと選んでくれてありがとう」
「・・・え」
ピタリと頭を掻いていた佐助の手が止まる。
聞き間違いかと一瞬思うが、忍の耳が聞き間違いなどするはずがない。
それに視線を床から凛に上げていけば、凛ははにかんだ様な笑みを浮かべていた。
「選んでた時、意見聞いてくれたでしょ?あれ、嬉しかったのよ」
「え、あ、そいつはどうも・・・」
目すら合わせてくれないと思えば、今は真直ぐにこちらを見ている。
喜怒哀楽も見せてくれなかったはずが、今は(さっきもだが)僅かに笑みを見せてくれている。
そんな昨日までと態度がまるで違う凛に、佐助は戸惑いを隠せない。
そのせいか飄々とした自分を演じるつもりが、ぎこちなくなってしまう。
「・・・あのねぇ、私だって礼儀は弁えてるの。お礼ぐらい言えるのよ」
ぎこちないままの佐助に呆れたように凛が言う。
しかし呆れているとは言え、その表情はどこか優しいものだった。
「あー・・・。その、俺様は・・・ごめん」
「・・・」
「初対面の時の。あれ・・・まだ謝ってなかったし」
だから、と呟いた後に佐助は思わず凛から目を逸らす。
「長。まだ凛様に初対面のときの事、謝っていらっしゃらないのでしょう?凛様が冷たいのはそれが原因のようですわ」
昨日の部下から報告が頭を巡る。
謝罪一つなんて気にすることではないはずなのだ。
なのに何故、いまこうやって謝っているのか。
凛は客人で、いつかいなくなる身。
・・・友好関係を築く必要だって無いというのに。
「佐助」
不意に名前を呼ばれ、また視線を凛に戻す。
黒髪の奥から覗く、同じ黒い瞳から目が離せない。
そのまま見つめていれば、凛がフッと肩の力を抜いた。
「別に捕って喰わないわよ。あのね・・・これから、仲良くしてくれる?」
「俺様と・・・?」
「佐助以外この場に誰が居るの?」
呆れた様子の凛に言われて、佐助は思わず苦笑を浮かべる。
けれど今まで冷たくされていた相手に、いきなり仲良くといわれても嫌な気持ちにはならなかった。
ならば取るべき行動は一つだろう。
「・・・俺様でよければ」
姿勢を正し、片膝をついて佐助は深く頭を下げた。
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