迷彩と縮む距離
(3/5)
「佐助、いるんでしょ?降りてきて」
直後。
カタリと音がして、凛の横に佐助が姿を現した。
「俺様に何か用?」
「用が無きゃ呼ばないわ。話は聞いてたでしょ?」
「見立てるの?」
「そう、お願いね」
訝しげな表情をする佐助の目を見て、凛は僅かにだが笑みを見せる。
一瞬、佐助の目が見開かれたような気がしなくも無いが、確認する前に彼は凛に背を向けていた。
「・・・姫さんはさ、城下に行きたいとか考えてる?」
「城下?まぁ、幸村の話に良く出てくるから行きたいけど?甘味食べたいし」
「ふーん・・・。じゃぁコレね」
ポスンと凛の膝元に落とされた反物。
それは薄い桃色で染め上がった生地に、少し濃い目の色で小花が散りばめられたもの。
しかも小花は色は濃い目だが、控えめで可愛らしい柄だった。
「大将も旦那も桜も選択はいいんだけど、それだと姫さん外出るとき目立ちすぎでしょ。柄も大人っぽいし」
「へぇ・・・」
「すこーしぐらい、外見年齢に相応のがあってもいいんじゃない?じゃ、俺様戻るから」
唖然としている面々の前で、佐助は黒い羽を残して消えた。
「そ、それで如何なされますか?」
「え、あ、あぁ・・・」
一番最初に我に戻った反物屋が両手をすり合わせ、凛の顔色を伺う。
声を掛けられたことで凛は慌てて信玄へと視線を送れば、その意図を理解した信玄はゆっくりと頷いてみせた。
「じゃぁ・・・これで」
迷う事無く凛が4人の選んだ反物を差し出せば、反物屋の目が光る。
「へい!ありがとうございます!あぁ、お客様ちぃとばかり丈など宜しいですか?」
「構いませんよ?あ、でも」
立てないんですけど、と凛が言う前に反物屋はそのままで構わないと告げる。
そして商売道具らしい紐で簡単な採寸を終わらせると、選ばれなかった反物を持ってきた籠に仕舞いこみ深く頭を下げた。
「では、本日はこれにて。仕立てが出来次第直ぐにお持ちしますゆえ。どうぞこれからもご贔屓に」
「うぬ、期待しておるぞ」
「お、お願いします・・・?」
反物屋が立ち去り、部屋に残るは4人だけとなった。
「さてワシは届いておる書簡を読まねばのぉ」
「某は鍛錬に行って参りまする!」
「私、折角ですから凛様のお部屋をお掃除してまいりますね。掃除が終わり次第、お迎えに上がりますわ」
「ぇ゛」
引き止めるまもなく、3人は腰を上げ順にその場からいなくなる。
残されたのは結局、まだ歩けない凛1人だけ。
「・・・いる?っていうか居るでしょ?降りてきて?」
天井に向かってそう言えば、またカタリと音がした。
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