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迷彩と縮む距離
(2/5)


昼下がり、何時誰が手配したのやら、城下の反物屋が城を訪ねてきた。


「やっぱ武田と言えば赤ですからね!その類の色をお持ちしましたが如何でしょう?」

「お、おお・・・」


目の前に広がる反物の数々に凛は思わず感嘆の声を漏らす。
いきなり桜に部屋を移され何事かと思えば、こう言う事だったらしい。
上座に腰を下ろす信玄と幸村も何やら楽しそうに見える。


「凛よ、好きなものを選ぶが良い!」

「・・・って言われても・・・数が・・・」


反物屋の気持ちは嬉しいが、ざっと見ただけでも数は30を超えている。
凛1人で絞り込むには、困難なのは目に見えていた。


「凛様、お手伝いいたしましょうか?」


控えめに掛けられた桜の申し出に凛は迷う事無く、首を縦に振った。


















「だいぶ減った・・・!」

色で好みを分け、柄で好みを分けたり等等など・・・。
取捨選択を繰り返し、反物の数を半分近くにまで減らしたときには既に半刻以上が経過していた。
時間を取りすぎている客だと言うのに、嫌な顔をしない反物屋はさすが商売人といったところか。


「流石にこれ以上は絞り込めませんわね・・・」

「ですねぇ、甲乙付けがたいから残っちゃったわけですし」

「4か5程に絞り込めたら宜しいのですが・・・」

「4、5・・・。あぁそうか」


ポンと手を叩き、凛は上座を見た。


「信玄。幸村。反物1反ずつ見立ててくれる?」

「ぬ?」

「なんと!」

「良いから良いから、ね?」


こっちに来いと凛に床を叩かれ、信玄と幸村は腰を上げる。
まさか目の前の少女の言葉に武田の将が動くと思っていなかったのか、一瞬だが反物屋の目が見開かれる。しかしすぐに商売人としての顔に戻り、彼等にあれやこれやを説明し始める。
それにしても大の男が2人、女向けの反物を選ぶのは中々滑稽でもあった。


「これなどどうじゃ?」


先に決めたのは信玄。
彼の手には赤地に百合の花が所々に描かれたものだった。
恐らく仕立てれば、裾や袖の箇所に百合の花が来るのだろう。


「某はこれに致しまする!」


そして幸村が決めたのは、赤橙の生地に鞠の柄が施されているものだった。
これも信玄が選んだものと同じく、柄が出る場所を選ぶのだろう。


「うん、ありがとう。じゃぁ、それは仮置きして・・・。桜さんも選んでいただけますか?」

「私が、ですか?」

「えぇ。・・・だって、ここで女の方って桜さんだけですし、ね?」

「凛様・・・。判りました、一番似合うのをお見立てさせていただきます」


深々と頭を下げ、桜は反物選びに取り掛かる。
そして信玄や幸村に比べたら半分以下の時間で、一つの反物を手にした。


「これは如何でしょう?」


薄紅色に蝶が描かれたそれ。
反物に散らばるように描かれた蝶は、きっと柄の出る場所を選ばない。


「ありがとうございます。じゃ後一つは・・・」


桜が手にした反物を自分の横に置き、凛は顔を上げた。



 


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