素直じゃない
(3/5)
「うーん・・・」
夜。僅かに開けられた襖の隙間から漏れる光。
それに合わせるように掲げるのは、蔦の絡まる枠が細工された水晶玉。
とは言え相変わらず曇っているから、向こうの光を得ることは出来ない。
暫く水晶玉を見つめていた凛だが、やがて諦めたように水晶玉を懐に戻した。
「よいせっ・・・と」
歩くな、とは言われているが、動くな、とは言われていない。
それに足の裏だけ酷い怪我らしいが、逆を言えば怪我しているのはそこだけだ。
膝立ちで歩くことなど、何の問題でもない。
「・・・屁理屈よねぇ」
ひとり苦笑いしながら、凛は襖を開けて、縁側に腰を下ろす。
三日月の光がぼんやりと照らす庭は、昼とはまた違う顔を見せている。
草木が揺れ動く度に、凛はうんうんと何度も首を縦に振った。
「あぁ、そうなの。うん、ありがとう。私?大丈夫よ、この姿を維持出来ているから消えない」
「村は?・・・そう。あ、畑も?それなら良かった」
風の音に、草木が揺れる音に、凛は独り言のように言葉を返す。
その顔は何時になく穏やかな表情を浮かべていた。
「へぇ、判った、覚えておくわ。・・・で、出てこないの?隠れてるのは判ってるんだけど?」
凛が廊下の曲がり角に視線を動かせば、床の軋む音がして廊下に影が伸びた。
「ばれておったか」
「私相手に気配消したって無駄よ?判っちゃうんだから」
クスクスと外見に相応な笑みを見せる凛に隠れていた影・・・信玄もつられて口元に笑み浮かべる。
「それで?のんびり自然と会話してる私に何の御用?」
「風もないのに草木が揺れてのぉ。何かあったのかと思うただけよ」
「あら、それはごめんなさい。ちょっと近況を聞いてただけだから」
「村や畑か?それぐらいなら、忍を飛ばして報告させるがのぉ?」
どっかりと凛の横に腰を下ろした信玄に、凛は困ったように首を横に振った。
「それは"人の目"から見た報告。私が欲しいのは"自然"からみた報告なの。生憎護ってるのは人だけじゃないのよ」
「ふむ。そうであったな。職務中に邪魔をしたようじゃの」
「別に良いわよ?信玄ならさっきの見ても驚かないでしょ?知ってるんだから」
それに自然も信玄の事知ってるし、と凛は付け加える。
そして顔から笑みを消すと、信玄に向き合った。
「・・・それで、本当は何の用?」
「何じゃ、ばれておったのか」
「当たり前よ。信玄は"風もなく草木が揺れる理由を知ってる"んだから。"何かあった"なんて思わないでしょ?」
「鋭いのぉ・・・」
凛の的確な指摘を受け、信玄は苦笑を漏らした。
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