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部屋で出会ったのは若虎
(2/2)


お茶でもしましょうか。と桜が部屋を出た数秒後。
凛は不意に身体を起こし、天井を見上げた。


「降りてこないんですか?」


投げかけた言葉に対する返事は、天井板が外される音だった。


「いつから気付いてたの?」


部屋に下りることはせず、まだ警戒を解かない佐助は凛に問いかける。
その問いに凛が医者が来る前から、と告げれば佐助は言葉を失った。


「・・・俺様、忍としての自信無くしそう」

「生憎"人間"じゃないので。ついでに言えば、部屋の外でずーっとこっちを窺っている気配、あれも大分前からいますよね」


つい、と凛が指差す先。つまり部屋の外の庭先。
植え込みの隙間から、茶色の髪の毛が見え隠れを繰り返していた。
本人気付いていないんですかね?と呟く凛に、佐助は頬を掻くと天井裏から縁側に移動する。


「旦那、隠れてるつもりだろうけど、バレてるよ」


佐助がそう言えば、ガサリと植え込みが揺れる。
そして白い小袖に赤い袴の鍛錬着に身を包んだ幸村が姿を見せた。
部屋に上がるように凛が促せば、幸村は素直に従った。


「はて・・・いつから気付いておられた?」

「最初からですよ?」

「なんと!土地神殿は最初から某に気付いておられたのか!」

「え、えぇまぁ・・・」


佐助とは違う反応を示す幸村に凛は戸惑う。
と言うより気配には気付いていたが、一体誰なのか。
甲斐で起きた戦は全て知っているから、何となく想像はつくものの、流石に間違っていては失礼だろう。


「とりあえずお名前、お伺いしていいですか?」

「おぉ、それは失礼申した。某は真田源次郎幸村!お館様にお仕えしておりまする!それからこっちが某の忍の佐助でござる!」

「ちょ、旦那?!どーして俺様の事も言うわけ?!」


名乗るだけかと思いきや、胸を張って自身も紹介されてしまったことに佐助は慌てる。
対して幸村はあっさりと「部下を紹介するのは上司として当然の務め!」と言い張った。


「・・・えーと、そうしたら幸村殿と佐助殿ですね。
 私は甲斐の地を護る者、凛と申します。このような床にいる状態で己を名乗ることをお許し下さいませ」


ぼんやりとした視界でそれぞれを見た後、突然畏まった凛に二人は驚く。
幸村は話に聞いていた土地神の凛に頭を下げられたことに。
佐助は(失礼だが)凛が礼儀を弁えていたことに。


「土地神殿が頭を下げられるなどそんな・・・!頭を上げてくだされ!それに某の事は幸村と。聞けば、お館様は信玄と呼ばれているとの事。お館様を差し置いて、幸村殿と呼ばれては、この幸村、お館様に向ける顔がありませぬ」

「俺様も。佐助でいいよ。畏まられるほどの身分でもないし」

「じゃぁ・・・幸村に佐助?」


控えめに名前を呼べば、それで良いと言う様に首を縦にする。
そんな時タイミング良く、お茶を持ってきた桜が戻ってきた。


「あら幸村様に佐助様。どうなさったんですか?」

「桜殿!某は「あー、はいはい。旦那は黙ろうね!」・・・ぬぅ」

「二人とも自己紹介しに来てくれたんですよ。ね?」


馬鹿正直に言いそうになった幸村の口を佐助は慌てて塞ぐ。
そして何となく空気の流れを察知した凛が、それとなく二人の行動を包み隠した。


「あら、そうだったのですか?」


最も桜は幸村と佐助に気付いていたのかもしれない。
その証拠にお茶は3人分用意されていた。




 


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