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14

「…サツキちゃん?大丈夫?どこか辛いの?」

「ふぇ?」


ぱちくりと瞬きすれば、ナナミお姉ちゃんの心配そうな顔。
ぼーっとしていたのよ?と言われ、大丈夫と首を横に振る。


「そう?ならいいけれど…少しでもおかしいと思ったら言ってね?」

「うん」


出かける時の約束。
“少しでも体の異変を感じたら、すぐに言う事”
手遅れになったら大変だから。


「じゃぁ私はお買いものしてくるから、サツキちゃんも終わったら待っててね」


フレンドリーショップの前でナナミお姉ちゃんと手を振って別れて、ミニリュウをボールに戻す。
フレンドリーショップは「前」でいう所のコンビニかドラッグストアだと思う。
営業時間が24時間なのはコンビニ、幅広いジャンルの商品の取り扱いはドラッグストアそのもの(さすがに生鮮食品は無いけど)。
そしてコンビニみたいにちょっとした発送業務も兼ねていて、私はその窓口に背伸びして手紙を差し出していた。


「いらっしゃいませ!あらあら、可愛いお客さんですね。お手紙ですか?」

「っ…はい」


無駄に高い発送受付専用カウンターは小さい私には負担が大きい。
受付のお姉さんが身を乗り出してくれたから良かったけれど、気が付いてもらえなかったら…ああ、うん、これからは先に声を出そう。


「通常配達ですか?それともピジョット便でしょうか?」

「通常配達で大丈夫、です…」

「かしこまりました。通常配達ですね」

「あ、後、それください」

「こちらですか?そうしましたらお会計が…」


タタンッ!とキーを叩いたお姉さんが提示した金額を支払って、手紙を渡してカウンターに吊ってあったシールを貰った。
フレンドリーショップのロゴが印刷されたビニル袋をカバンに仕舞いこむ。
後はナナミお姉ちゃんを待つだけ、とショップに併設された休憩スペースで腰を下ろした。



「…疲れた」


くたりと休憩スペースのテーブルに突っ伏して、パーカーのポケットを漁る。
目当てのものを引っ張り出せば、視界の隅で生まれた赤い閃光。


「ミニリュゥぅぅぅ…」


なぁに?なぁに?と黒い瞳で見つめながら首を傾げるミニリュウを抱き上げて、ぎゅぅぅっと抱きしめる。…ああ、落ち着く。


「…ん?あ、自動販売機?」


しばらく腕の中の癒しを貰っていたら、ぺしぺしと尻尾で腕を叩かれて顔を上げる。
くいっとさした先には自動販売機が1台。買うの?と聞けば、ウンと首を縦に振られて席を立つ。
明るすぎるバックライトに眩しさを覚えながら背伸びして、お財布に伸ばしていた手が止まった。


「…、…高い」


背が、じゃない。
値段が、です。
水だけで200円、ソーダが300円、ミックスオレに至っては350円。
かつてコンビニでお茶を100円で買っていた身からすれば、ぼったくりもいい所…じゃないかな…。
しかも量が多いならともかく、どう見てもソーダやミックスオレは500mlあるようには見えない。


「むむ…」


あまり、買う気が起きない。
もしかしたら店の売り上げを上げたいために料金が高いのかもしれない。それなら面倒だけどショップに戻って買えばいいかなー…。
そう考えていたら不意に影が差した。


「何?金足りないのか?」

「…え、グリーン…?なんでここにいるの?」


ぱちくりと瞬きした先には久しぶりに見たグリーンの姿。
彼はしゃがみ込むと私の傍にいたミニリュウの頭を撫でていた。


「さっきジムの外に出たらさ、ねーちゃんと会って。ショップにサツキがいるって聞いたから様子見に来たんだよ」

「そうなの?」

「ちらっと聞いたけど、外で歩いて体力付けろって言われたんだって?」

「あー…うん。そう、まだ時間はあるからって言われたの」

「ふーん。良かったじゃん、ダメって言われなくてさ。で、金足りないのか?」


ミニリュウと同じように頭を撫でられながら言われた2回目の言葉に違うと慌てて首を横に振る。
単純に高いと思っただけ、と言えばグリーンは納得した様な顔を見せた。


「まぁそうだよな。でもポケモンにも飲ませられるって考えれば結構安いと思うけどな」

「え、そうなの?」

「おー、人も飲めるし、ポケモンも飲める。おまけに体力回復してくれるから旅先じゃ便利だぞ」


荷物が嵩張らなくて済む、と経験者ならではの感想を述べながらピッとグリーンの指先が音を立てる。
あ!と声を上げた時にはガシャコンと自動販売機特有のあの音と共にドリンクが落ちてきた。


「ほい。やるよ」

「え、あ、でも…お金…」

「ばーか、サツキに心配されるほど貧乏じゃねぇよ。これでもオレ、ジムリーダーだぜ?」


笑いながらグリーンが押し付けてきたのはミックスオレ。
…これ、一番高いやつだ…。


「じゃ、オレそろそろジム戻るわ。時間取れたらマサラに戻るけど、もしトキワに来るなら連絡くれよ。ねーちゃんが番号知ってるはずだしな」

「うん、わかった。頑張ってね」

「おう。行ってくるわ」


くしゃくしゃと私の頭を撫でて、グリーンは休憩スペースを出て行った。
その後ろ姿がなんかちょっとかっこいいなぁ…なんて思ったのは口に出さないでおいた。
…何か本人に言ったら「当たり前じゃん」とか言いそうじゃない?





その後、ミニリュウとミックスオレを半分こして(美味しかった)、ボーっとしてるとお買い物を終えたナナミお姉ちゃんが休憩スペースに迎えに来てくれた。


「ごめんね!サツキちゃん。タイムサービスでレジが並んでて遅くなっちゃって…大丈夫?疲れてない?」

「休憩したから大丈夫、それにねグリーンに買ってもらっちゃったの」

「あらグリーンに?良かったわね」


空っぽになった缶を見せれば、ナナミお姉ちゃんがふんわりと笑う。


「じゃぁ帰りましょうか。晩御飯の支度しなきゃ。お手伝いしてくれる?」

「うん!」


ナナミお姉ちゃんから小さい買い物袋を譲り受けて、来た時と同じように手を繋いでマサラに続く1番道路を歩いて帰る。
いつかガサガサ揺れる草むらに入る日が来ることを夢見れば、買い物袋の重さも全然気にならなかった。



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