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12


―トレーナーカード


それはこの世界でいうところの身分証明書。
この1枚があれば、各地にあるジムに挑めるのはもちろん、ポケモンセンターで無料宿泊だって出来ちゃう優れもの。
他にも互いにポケモンバトルを挑めるとか、ポケモンに技マシンを使えるとか色々特典はあるらしい。
ちなみに発行はお近くのポケモンセンターで、という事なんだけど…。


「マサラにないよね、ポケモンセンター」

「あぁ。だから近くのポケセンか、急がないなら旅をはじめるときに作るか…。なぁサツキ?」

「なぁに?」

「お前、生まれはジョウトなんだよな?旅に出るならジョウトとカントーどっちを巡りたい?」

「…え?」


頭に?を浮かべる私にグリーンは丁寧に説明してくれた。
本来なら自分が住んでる地域のバッジを集め、リーグに挑むのが基本的なスタイル。
けれど私の生まれたフズベ…つまりジョウト地方も今いるカントー地方も挑むポケモンリーグは一緒。
だから生まれのジョウトで旅をするか、育ちのカントーで旅をするか、私には選ぶ事が出来るらしい。


「それってね、選んでなにか差が出るの?」

「あー…ジムリーダーの扱うタイプが違うとか、その程度だな。バッジを8個集めないとリーグに挑めないのは一緒だ」

「ふーん…。…うーん、ジョウト、かなぁ…」

「へぇ、ジョウトか」

「うん。カントーだと、グリーンたちの後を追いかけるだけだし…、この間テレビでジョウトにはカントーにいないポケモンがいるって言ってたから探してみたい。それに…私、自分が生まれたジョウトがどういうところなのか全然知らないから、ちゃんと自分でみてみたいな…」


私が知っているジョウトはあの病室から見た外の景色と、マサラに来るまでの上空からの眺めだけ。
どんな町があって、どんな人がいてとか…そういうのは全く知らない。
カントーは旅をしていたグリーンからの通信だったり、ナナミおねえちゃんのお買いもので一緒にお出かけしたりってちょっとは知ってるから。


「…だめ、かな…?」


なんでかわからないけど、渋い顔をしているグリーンの顔をミニリュウと一緒に覗き込む。
しばらくたっても反応がないから、ミニリュウがむにゅっと鼻を押し付ければグリーンは慌てて顔を上げた。



「いや、ダメじゃねぇよ。ただ、その…聞いたオレも忘れてたんだけど、サツキの場合、多分1つ条件があると思うぜ」

「え、条件?」

「あぁ。最近は落ち着いてるけれど、サツキの体調だな。医者がOK出さなきゃそもそも旅も何もないからな…」

「…、…あ」


ザァッと体中の血の気が引いて、今までの気持ちが空気の抜けた風船のように萎んでいった。
前の世界でも、今の世界でも健康とは程遠い私の体。
マサラに来たころに比べて、最近は発作が起きることも体調を崩すこともだいぶ減ってきたけれど…。
旅をするとなれば、いろんな場所に行くから体に負担もかかるし、下手すれば野宿もあるらしい(グリーン談)。
町の中ならともかく、人目のつかないところで発作を起こせば最悪の事態も十分に考えられる。
しーんとゴースが通り抜けた後のような空気が漂う、それを振り払うようにグリーンが口を開いた。


「こ、今度タマムシの病院に行くのいつだ?」

「え、えっと…お薬が来週なくなるから、来週だったと思う…」

「よし、じゃぁその時に先生に聞こうぜ。旅に行けるのは10歳からだし、時間はまだある。それに最近は具合も良いし大丈夫だろ。なぁ、サツキ!」

「…うん、そう、だね」


グリーンの言葉がチクリと胸に刺さる。
具合も良いし、大丈夫。そう思っていても突然牙をむくのが、この体なのは私が一番知っている。
でもきっと励ましてくれているつもりだろうから、ぎこちないまま笑顔を浮かべる。
幸い、その笑顔は「旅に行けないかもしれないショック」と受け止められたみたいだった。






















「ねぇミニリュウ、旅に行けなかったらどうしようねぇ」


夜、ベッドの上でミニリュウを抱え込んで一人呟く。


「グリーンは旅に出なくてもトレーナーカードは作れるから、バトルも出来るって言ってくれたけど…」


旅もジム踏破もリーグ挑戦もあくまでトレーナーとして1つの生き方。
だからサツキはサツキがやりたいようにすればいい、そう言ってくれたけど。


「…けど、旅に出られなきゃジムも挑めないから兄様とバトル出来ないよ…」



「いつかバトルしような」



あの誕生日の夜、4年ぶりに再会した兄様の言葉が蘇る。
それは兄妹の親睦を深めるバトル、の意味だったのかもしれないけれど。
私は1人のリーグ挑戦者として、バトルをしてみたかった。
だってなんだか「兄様の妹」として挑んだら手加減されてしまいそうな気がするから。


「…旅、出たいねぇ…。ミニリュウもいろんな所に行ってみたいよね?」


くるりとつぶらな瞳を覗き込めば、うん!と言いたげにミニリュウは首を縦に振って顔をグリグリと押し付けてくる。
まるでそれが諦めちゃだめだよ、って言われてるみたいで自然を笑顔が浮かんできた。


「うん。そうだよね。ちゃんと言わなきゃね、旅に出たいんだって。言わなきゃ伝わらないもんね」


ちらりとカレンダーにつけられた丸印を見つめ、何とかなりますように。そう願った。

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