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孵化してからミニリュウはグリーンが言うように、日々脱皮を繰り返して大きくなっていった。
重たくはないけど、小さい私が抱っこするにはもう無理なぐらい、にょろ〜んと成長中。
…多分私がもう少し大きくなったら抱っこできると思うんだけど、それより先にもっとミニリュウが大きくなっちゃいそうな予想。
そして身の回りが少しづつ変わり始めた。
「…え?」
「黙ってて悪ぃ。…怒ってるか?」
「う、ううん…。びっくりしたけど…」
文字通り、突然の告知。って言えばいいのかよく判らないけど。
言葉の出てこない私にミニリュウが「大丈夫?」と首を傾げながら見上げてくる。うん、大丈夫だよ。…びっくりはしたけど。
「えっと、ジムリーダーおめでとう。でいいんだよね?」
「まだ正式に決まったわけじゃねーけどな。でも候補がオレしかいないから決まったも同然か」
困ったような笑みを浮かべ頭を掻くグリーン、これに似た笑みを前に私は見た事がある。
(グリーンが兄様に勝ったって聞いた時のおじいちゃんとおんなじだ…)
だから、つまりグリーンは嬉しいんだと思う。
まだこの世界のポケモントレーナーというのがよく判らないけれど、ジムリーダーが重要な役目を果たしているのは判ってる。
対峙するトレーナーの力量を見極め、相応しいと思えば認めた印のバッジを渡して次の道を示す。
じゃなきゃ兄様がトップに立つポケモンリーグに挑めないから。
そこでふと気が付いた事を口にしてみた。
「ねぇ。なんで候補がグリーンだけなの?他にはいないの?」
「あー、それなぁ…」
今度こそ心底困ったという表情をグリーンが浮かべる。
思わず聞いちゃダメだった?と口を開きかけたけれど、それより先にグリーンがポツリと話し始めた。
曰く。
グリーンがジムリーダーを務めるトキワジムは、かつてロケット団のボスが務めていたらしい。
そして彼はロケット団とジムリーダーの二足の草鞋だったため、しょっちゅうジムを空っぽにしていたんだとか。
ジムリーダーがいないという事は、必然的に挑戦者はそのジムを後回しにしないといけない。
結果どうなるか。
トキワジムはポケモンリーグに挑む最終関門、というポジションになってしまったらしい。
つまりそのジムの頂点に立つものはそれ相当の腕がないといけない訳で。
それこそ、リーグに挑む実力が最低限備わってないといけない。
そこで最近リーグに挑み、且つ突破してしまったグリーンに白羽の矢が立った…と。
本来ならレッドがその役目だったかもしれないけれど、あいにく彼は今どこで何をしているのか全く判らない。
それに知らなかったけれど、グリーンは本来就くべきチャンピオンの座を蹴っていたらしい。
なのでその代償、というわけでないけれど適任者という事でリーグ事務所から連絡が来た。
…というのが大体の話の流れ。
「……」
「…あー、サツキにはまだ難しい話だったかもな。要するにジムリーダーになれるのがオレかレッドだけど、レッドがいねーからオレがなったって感じだな!」
沈黙を理解できていないからと取ったグリーンが慌ててフォローを入れてくれる。
…でもね、グリーン。私、見た目こんな小さい女の子だし前世は病院がお友達だったけど、それぐらい判るよ?
「えっと、グリーンが強いから。って事なのよね?」
フォローを無視しちゃ失礼だから、とにかく平たく噛み砕いでみた。
簡潔にしすぎた確認だけど、グリーンにとっては満足な回答だったみたいで笑顔で頷いてくれた。
「でも悪いな、バトル見てやるって約束、守れそうにねぇや」
「…あ」
ちらり、と足元のミニリュウを見る。
卵から孵って、にょろにょろ成長しているこの子はまだバトルを知らない。
さすがにすぐ旅に出るわけじゃないから、孵って早々バトルするのはやめよう、と言ったのは誰だったっけ。
ナナミおねえちゃん?グリーン?それともおじいちゃん?
一人記憶を巡らせている間にグリーンがズボンのポケットから使い古したポケモン図鑑を取り出していた。
「どれどれ…。……は?」
「え、グリーン?どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ。つーか、サツキ。俺の想像だけど、多分こいつバトルの練習いらねぇ」
「…え?」
何が書いてあったの?と図鑑を覗き込む前にパタンと図鑑を閉じてグリーンは笑う。
「バーカ、最初から知ってたらつまんねーだろ?実戦で自分の目で確かめな?」
「えー…。じゃぁミニリュウ使える技を出し…」
「ちょ!サツキ!バカ止めろ!それ以前にお前トレーナーカード持ってないだろ?!」
私の指示に体をのけ反らせたミニリュウを抱きかかえ、グリーンが叫ぶ。
その勢いに一瞬私は体をビクリとさせたけど(だって怖かった)、次の瞬間には首を傾げていた。
「…トレーナーカード…?」
…聞いたことあるけど、それなんだっけ?